量子光のパルス波形を自在に制御する新手法を開発:量子任意波形発生器の実現に向け
東京大学は、NTTや情報通信研究機構、理化学研究所の研究チームと共同で、量子光のパルス波形を自在に制御する新たな手法を開発した。量子光源となる「量子任意波形発生器」の核となる技術で、新手法を用い大規模光量子コンピュータの作動に必要となる特殊なパルス波形を持つ量子光の生成に成功した。
光量子コンピュータなど、さまざまな量子技術の開発を促進
東京大学の高瀬寛助教と古澤明教授らは2022年10月、NTTや情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所の研究チームと共同で、量子光のパルス波形を自在に制御する新たな手法を開発したと発表した。量子光源となる「量子任意波形発生器(Q-AWG)」の核となる技術で、新手法を用い大規模光量子コンピュータの作動に必要となる特殊なパルス波形を持つ量子光の生成に成功した。
研究グループは、任意の量子光を任意のパルス波形で出力できるQ-AWGを提唱し、要素技術の開発に取り組んできた。汎用性の高い光源として、レーザー光を任意のパルス波形で出力する「AWG」がある。しかし、損失に極めて弱い量子光への応用には限界があったという。
そこで、量子もつれを介してパルス波形を自在に制御する新しい手法を考案した。研究グループは、「光1」と「光2」に量子もつれがある場合について、その事例を示した。例えば、光子検出器に光2を入射させると、光子が検出されたタイミングで、光1側に狙った量子状態が生成される。この時、光子検出器の前に光フィルターを設置しておけば、生成される量子光のパルス波形を指定できるという。
特に、量子もつれのある光の周波数帯域を広くすれば、波形制御の分解能が向上し、任意のパルス波形を得ることができる。目的の量子光を生成する光1側には光フィルターがないため、量子光への損失を抑えた状態でパルス波形の制御を行うことが可能となる。
研究グループは、東京大学とNTTが共同開発した「広帯域スクイーズド光源」および、東京大学とNICTが共同開発した「超伝導光子検出器」を用い、提案した手法の検証を行った。実験では、スクイーズド光とビームスプリッターを用い、量子もつれのある光を生成した。そこに、光フィルターと光子検出器を組み合わせ、シュレディンガーの猫状態と呼ばれる量子光を、「バランス型タイムビン波形」のパルスとして生成することに成功したという。
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