433量子ビットのQPUを発表、IBMの最新開発動向:次世代量子システムの詳細も(2/2 ページ)
2022年11月に開催された「IBM Quantum Summit」で、IBMは量子コンピューティングの発展/普及に向けた最新の取り組みを紹介した。
さらなるシステム拡張に向けたマルチレイヤーケーブル
シャンデリアのような従来型の量子クライオスタットでは、各レイヤーは下に行くに従って低温になる。底に位置するQPUはミリケルビンレベルと、宇宙空間より低い温度で動作する。そうした温度ではガスは全て液体化するため、クライオスタットは真空で動作する。下図のループのついた細い垂直のケーブルは、マイクロ波パルスをQPUに送るのに必要な同軸ケーブルである。
IBMは、さらなるシステム拡張に向けて、カスタム仕様で柔軟性のあるマルチレイヤーケーブルを開発している。数百本のマイクロ波同軸ケーブルを手作業で配線する必要があるうちは、効率的で信頼できる機械設計とはいえない。同社が開発するケーブルは、量子ビットの数が増え続ける中でより効率的なシステム組み立てを実現するという。
同軸ケーブルがマルチレイヤーケーブルに置き換わっても、クライオスタットの各レベルの温度がケーブルの拡張/収縮を引き起こすため、同軸ケーブルと同様に柔軟性が求められる。この新しく柔軟性のあるワイヤは、ワイヤ密度を70%も高め、ライン当たりの価格を5分の1まで削減するという。加えて、マルチレイヤーケーブルはシステムの信頼性と保全性も向上させる。
量子コンピュータのノイズへの対処は、同技術をより幅広く普及させるうえで重要な課題となっている。
IBMは「Qiskit Runtime」のβアップデート版をリリースした。このバージョンでは、ユーザーはAPIの簡単なオプションで、ユーザーが速度とエラー数の削減をトレードオフできるようになった。これらの機能の複雑さをソフトウェア層へと抽象化することで、開発者は量子コンピュータをより容易に導入できるようになる上に、量子アプリケーションの開発を加速化できるという。
「2025年に4000量子ビット超」目指すIBMの次世代量子システム
IBMは、「2025年に4000量子ビット超を達成する」という目標に向けて、量子システムの規模を拡大するにあたり、既存の物理システムやエレクトロニクスの能力を超える次世代システムを必要としていた。
IBMは、モジュール性と柔軟性を高めた新たな「IBM Quantum System Two」の最新の詳細を発表した。メインのクライオスタットはシリンダー型から六角形の箱型に変更された。IBMによると、六面のデザインにより、外部制御電子装置をクライオスタットの隣に置けるようになった他、よりモジュラー性を高めたクライオスタットを追加できるようになったという。
一方で、六角箱にはあるトレードオフが伴う。六角形の平たん面上の内部真空にある不均等な圧力に対処するため、より厚い金属構造が必要になるのだ(内部の圧力はシリンダー全体で均等化される)
IBMのフェローでIBM Quantumのバイスプレジデントも務めるJay Gambetta氏は、ブログに「われわれのブレークスルーは、量子分野における次の波を定義するものだ。われわれはそれを『quantum-centric supercomputing(量子中心のスーパーコンピュータ)』と呼んでいる。このコンピュータでは、モジュール性、通信、ミドルウェアがスケーリングや計算能力の強化、量子と古典ワークフローの統合に貢献するようになる」と投稿している。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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