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音波を使ったリフトオフでウエハーコストを削減裏面研削後のウエハー基板を再利用

Crystal Sonicは現在、「音の力」を利用する革新的な素子のリフトオフおよび、基板再利用のための技術を開発している。デバイス当たりの製造コストを大幅に下げることを目的としている。

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ウエハー不足のリスク

 半導体素子の製造には、完全に平面で滑らかな表面を持つ高品質のウエハーを入手する必要がある。性能が高く信頼できる素子を製造するには、ウエハーの表面の品質が基本となる。不純物の形成や表面の凹凸は避けなければならない。最終部品に欠陥をもたらし、コストの高騰を引き起こす可能性があるからだ。

 Crystal Sonicは現在、「音の力」を利用する革新的な素子のリフトオフと、基板再利用に向けた技術を開発している。デバイス当たりの製造コストを大幅に下げることを目的としている。

 現在、WBG(ワイドバンドギャップ)半導体素子では、製造コストの半分近くが基板材料に起因する。同時に、主に自動車、ソーラーインバーター、モーターなどのアプリケーションにけん引される形で、特に炭化ケイ素(SiC)を材料とするWBGウエハー基板の需要が高まっている。

 需要とウエハー供給間のギャップは、今後数年のうちにさらに広がることが見込まれている。SiCウエハーの不足という潜在的なリスクがあるからだ。一方、窒化ガリウム(GaN)の需要についても、高い電力密度と効率、小型化が求められるあらゆるアプリケーションにけん引される形で急速に高まっている。

基板の再利用でウエハーコストを下げる

 こうしたギャップを埋める有望な手段が、基板を再利用する技術だ。

 米国アリゾナ州フェニックスに本社を置くCrystal Sonicは、ハードウェアを手掛ける新興企業で、2019年に設立された。材料の廃棄を減らし、低コストで次世代半導体を生み出すことを目標に掲げている。

 Crystal Sonicのリフトオフならびに基板再利用技術は、米国ならびに日本で有効な特許を保有している(加えてもう一つの特許がペンディング中で、さらに3つの特許申請を準備中である)。いずれも、アリゾナ州立大学のMariana Bertoni教授の研究室で生まれた技術だ。Bertoni氏は「Defect Engineering for Energy Conversion Technologies(DEfECT)」ラボで、欠陥が材料の電気特性/光学特性にどう影響するかに着目した研究を行っている。

 この「Sonic Lift-Off」として知られる特許取得済みのプロセス技術は、音波を用いて、半導体をベースとした素子の製造に用いられる単一の結晶ウエハーを切断する。それにより、無駄を防ぎ、コストを削減できるという。従来の研削プロセスはコストが高く時間もかかり、表面や基板表面にダメージがつくものだった。それとは異なり、Crystal Sonicの技術では音(音波)を用いて素子の薄膜を切断/リストオフする。その結果、高品質な表面が残り、バルク基板を再利用できるようになる。

 機械的なウエハー裏面研削(バックグラインド)を、この再利用技術に置き換えることで、素子のウエハーコストの寄与率(総コストの約50%)を、半分に削減できるとCrystal Sonicは主張する。何度か再利用を繰り返せば、寄与率をさらに低くできる可能性もある。

音波によるリフトオフ

 ウエハーの薄化は、後工程において極めて重要なプロセスだ。従来の方法は機械的な裏面研削だが、非効率的で時間がかかりコストも増加する(前述したように、素子製造コスト全体の50%がウエハーに起因するものである)

 図1に、半導体の製造工程の一部を示す。裏面研削を行った後は、ダイシングとパッケージングが続く。この時、基板材料の最大90%が廃棄されるとCrystal Sonicは説明する。

ウエハー薄化のプロセス
図1:ウエハー薄化のプロセス[クリックで拡大] 出所:Crystal Sonic

 Sonic Lift-Offは、音波を利用してウエハー基板からデバイスを分離させることで、基板の再利用を可能にする。

「Sonic Lift-Off」の概念図
図2:「Sonic Lift-Off」の概念図[クリックで拡大] 出所:Crystal Sonic

 図2に示したように、Sonic Lift-Offは高速で材料を一切無駄にせず、マイクロメートルレベルの精度を備えた高い表面品質を維持する。基板を再利用することにより、ウエハーのコストを大幅に減らせるようになる。

 現時点で、Crystal Sonicは直径の小さなSi/GaAs(ガリウムひ素)/SiC/GaN/AlN(窒化アルミニウム)ウエハー上でのデモや試作品テストに成功している。試作品テストでは、厚さの制御、表面粗さ、素子の特性といった点で「満足のいく結果を得られている」(同社)とする。さらに、図3に示す通り、再利用された基板で製造した素子の性能は、再利用前のウエハー基板で製造されたものとほぼ同等になっている。

再利用前および再利用後のウエハー基板で製造したデバイスの特性を比較する
図3:再利用前および再利用後のウエハー基板で製造したデバイスの特性を比較する。赤が、再利用していないウエハー基板で製造した素子、緑が再利用した基板で製造した素子[クリックで拡大] 出所:Crystal Sonic

【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】

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