ペロブスカイト薄膜の相乗的表面修飾法を開発:高い光電変換効率と耐久性を実現
京都大学や理化学研究所、英国Oxford大学の共同研究グループは、スズを含むペロブスカイト太陽電池で、最大22.7%の光電変換効率と高い耐久性を実現する技術を開発した。その技術とは、スズ−鉛混合系ペロブスカイト薄膜を効果的に表面修飾する手法である。
スズを含むペロブスカイト太陽電池、最大22.7%の光電変換効率
京都大学や理化学研究所、英国Oxford大学の共同研究グループは2023年1月、スズを含むペロブスカイト太陽電池で、最大22.7%の光電変換効率と高い耐久性を実現する技術を開発したと発表した。その技術とは、スズ−鉛混合系ペロブスカイト薄膜を効果的に表面修飾(パッシベーション)する手法である。
研究グループは既に、エチレンジアンモニウム ジヨード(EDAI2)とグリシン塩酸塩(GlyHCl)を用い、スズ−鉛混合型ペロブスカイト半導体薄膜の上下表面を構造修飾する手法を開発。この技術を活用して作製した太陽電池は、23.6%という光電変換効率を達成している。ただ、構造修飾のメカニズムや具体的な構造、電子的効果などについて、その詳細は解明されていなかったという。
そこで今回は、ジアミンとフラーレンのカルボン酸誘導体を用いた表面処理法を新たに開発し、表面パッシベーションのメカニズムとその相乗的効果を調べることにした。表面修飾の材料として今回採用したのは、従来のジアンモニウム塩ではなく、より強い塩基性を持つジアミンである。FAIとピペリジンの混合溶液「1H NMR」を測定したところ、系中でピペラジニウムに変換されることを確認できたという。
次に、開発済みの手法で作製したスズ−鉛混合型ペロブスカイト半導体膜(Cs0.1FA0.6MA0.3Sn0.5Pb0.5I3)を用い、ジアミン溶液で表面処理を行った。X線回折法により、作製した膜の特性を評価した。この結果、プロトン移動により系中で生じたジアンモニウムが、ペロブスカイト半導体薄膜の表面にAサイトとして組み込まれ、表面構造が再構築されていることを確認した。これらの処理を行うことで、ペロブスカイト半導体薄膜のバンドギャップに変化は生じないが、価電子帯準位(VBM)は0.11〜0.20eV低下し、表面はn型特性を持つことが分かった。
さらに、表面修飾法として「フラーレンのトリカルボン酸誘導体(CPTA)」に注目し、ピペラジン(PP)と混合した溶液で表面を処理することにした。混合溶液の1H NMRを測定したところ、3つのカルボキシル基をもつCPTAから、ジアミンへプロトンが移動して、ジアンモニウムとカルボキシレートを形成することが分かった。
実験では、これらの方法で表面修飾されたペロブスカイト半導体を用いて、太陽電池(FTO/PEDOT:PSS/ペロブスカイト/C60/BCP/Ag)を作製し、その特性を評価した。
ジアミンだけで表面処理を行った場合、20.8%の光電変換効率が得られ、開放電圧は40mV向上した。ところが、J-V曲線には大きなヒステリシスが残ったという。これに対し、CPTAとジアミンの混合溶液で処理すると、ヒステリシスはなくなり、開放電圧もさらに高くなった。曲線因子(FF)と短絡電流密度も向上し、22.3%の光電変換効率(VOC=0.88V、JSC=31.2mAcm-2、FF=0.81)を得ることができたという。
新たな手法を用いて作製した太陽電池は、最大で22.7%の光電変換効率となった。耐久性についても、CPTAとジアミンを組み合わせて処理したセルは、2000時間を超えても初期特性の96%を保持した。連続光照射条件下では、450時間後でも初期特性の90%を保持できることを確認した。
今回の研究成果は、京都大学化学研究所の若宮淳志教授やシュアイフェン・フ博士課程学生、リチャード・マーディ講師、ミンアン・チョン助教、山田琢允特定助教、金光義彦教授、塩谷暢貴助教、長谷川健教授と、分子科学研究所のペイ・ザオ特任助教や江原正博教授、理化学研究所の中野恭兵博士や但馬敬介チームリーダーおよび、英国Oxford大学のヘンリー・スネイス教授らによるものである。
今回の研究成果については、京大発ベンチャーである「エネコートテクノロジーズ」にも技術移転し、実用化研究に取り組む考えである。
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