リチウムイオン電池における溶媒和構造を可視化:京都大学とパナソニック
京都大学とパナソニックホールディングスは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、リチウムイオン電池における溶媒和構造を可視化することに成功した。
より高性能なリチウムイオン電池の開発を可能に
京都大学大学院工学研究科の小林圭准教授と山田啓文教授(研究当時)らは2022年12月、パナソニックホールディングス テクノロジー本部の山岸裕史主任研究員、井垣恵美子課長らと共同で、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、リチウムイオン電池における溶媒和構造を可視化することに成功したと発表した。
リチウムイオン電池の性能は、リチウムイオン(Li+)が電解質中で溶媒および負イオンに包まれる溶媒和構造や、電極表面で溶媒和が外れてLi+が電極に入り込みやすいかどうかで決まるという。このため、電極(固体)と電解質(液体)との界面(固液界面)で、Li+の溶媒和構造や脱溶媒和の様子を測定し最適化すれば、より高性能なリチウムイオン電池の開発につながるという。
そこで今回は、プロピレンカーボネート(PC)を溶媒とし、リチウム塩(LiTFSI:リチウムビス(トリフロロメタンスルホニル)イミド)を溶かした電解質中のLi+が、負に帯電したマイカ基板表面の近傍でどのような溶媒和構造となっているかを、周波数変調AFM(FM-AFM)で測定した。
実験ではまず、LiTFSIを含まないPC中で、マイカ基板表面近傍の2次元的な力分布を測定した。この結果、基板表面近傍で約0.5nm間隔の明るい縞を検出した。これはPC分子が基板表面で均一な層構造を形成していることを示すものだという。
続いて、0.8M(1リットル当たり0.8モル)のLiTFSIを含むLiTFSI-PC溶液中で測定すると、基板表面から約0.8nmの位置に明るい縞が現れた。これは、Li+が3つか4つのPC分子に囲まれて約0.8nmの溶媒和構造を形成しているためだという。これらは、分子動力学シミュレーションによる計算結果と一致した。
さらに、3.6MのLiTFSIPC溶液中で測定すると、基板表面から約1.4nmの位置に明るい縞が現れた。これはLi+が、3つか4つのPC分子および、負イオン(TFSI-)に囲まれて、より大きな溶媒和構造になったことを示すものだという。
上図はFM-AFMで測定したマイカ表面近傍における周波数シフトマップ、下図は溶媒和構造の模式図(いずれも左からPC、0.8M LiTFSI-PC溶液、3M LiTFSI-PC溶液)(クリックで拡大) 出所:京都大学他
今後は、実際のリチウムイオン電池に用いられている溶媒や電極を用いて、溶媒和構造や脱溶媒和の様子を分子スケールで測定し、より高性能なリチウムイオン電池の開発を目指すことにしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 青色で高出力、高ビーム品質レーザー発振に成功
京都大学とスタンレー電気の研究グループは、高い出力とビーム品質動作を両立させた、「青色GaN系フォトニック結晶レーザー」を開発した。車載用部品の加工や高輝度照明、水中(海中)LiDARなどの用途に向ける。 - ルチル型GeO2系で混晶半導体を開発、有用性も実証
京都大学、立命館大学、東京都立産業技術研究センターによる研究チームは2022年9月9日、次世代パワー半導体材料として注目されているルチル型GeO2(r-GeO2)を中心とした、ルチル型酸化物半導体混晶系(GeO2-SnO2-SiO2)を新たに提案するとともに、実験と計算の両面から有用性を実証したと発表した。 - 全頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子を合成
東京大学とAGCの研究グループは、広島大学および京都大学との共同研究により、全ての頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子「全フッ素化キュバン」の合成に成功し、その内部空間に電子が閉じこめられた状態を初めて観測した。 - 無機化合物で2つの基本構造を共存、制御も可能に
東京工業大学は、京都大学や大阪大学、東北大学の研究グループと共同で、無機化合物の基本的な結晶構造である「岩塩型構造」と「蛍石型構造」を共存させ、制御できることを発見した。環境浄化や人工光合成の実現に向けた、新しい機能性材料の開発につながる可能性が高い。 - 京都大ら、無磁場下で超伝導ダイオード効果を観測
京都大学中心とする研究グループは、強磁性体を含む極性超伝導多層膜において、外部磁場がない状態でも臨界電流の大きさが電流方向に依存することを発見し、無磁場下で超伝導ダイオード効果の方向を制御することに成功した。 - ポリマー半導体の電荷移動度が20倍以上に向上
広島大学や京都大学らによる共同研究チームは、ポリマー半導体の化学構造をわずかに組み替えるだけで、電荷移動度をこれまでより20倍以上も向上させることに成功した。