全固体リチウム電池、中間層挿入で応答速度を改善:リチウム伝導体を用いEDL効果を制御
東京理科大学と物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは、全固体リチウム電池の電気二重層容量を制御することで、充電時のスイッチング応答速度を大幅に改善させることに成功した。
中間層に膜厚5nmのLiNbO3/Li3PO4を挿入
東京理科大学と物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは2023年3月、全固体リチウム電池の電気二重層容量(CEDL)を制御することで、充電時のスイッチング応答速度を大幅に改善させることに成功したと発表した。
全固体リチウム電池の出力密度や耐久性を向上させるためには、固体/固体電解質界面の電気二重層(EDL)効果を制御することが重要だといわれてきた。しかし、固体/固体電解質界面における詳細なEDL構造についてはこれまで、十分な知見が得られていなかったという。
東京理科大学の樋口透准教授らはこれまで、EDLトランジスタ(EDLT)とホール測定を用い、電極/固体電解質界面に特定の電解質を挿入することで、EDL効果を抑制できることを明らかにしてきた。そこで今回、水素化ダイヤモンド(H-diamond)ベースのEDLTとリチウム固体電解質(Li-Si-Zr-O)を用いて、固体/固体電解質界面におけるEDLの厚さとCEDLについて調べた。
具体的には、H-diamondを半導体のチャネルに採用し、中間層として膜厚が5nmのLiNbO3あるいはLi3PO4を挿入したEDLTを作製した。このEDLTを用い、EDLが引き起こすリチウムイオン伝導性固体電解質/電子材料界面における電子キャリア変調の振る舞いを調べた。これにより、LiNbO3とLi3PO4デバイスの両方で、EDL形成によって正孔密度が著しく変調するのを観測できたという。
さらに、Li+欠乏領域でCEDLを評価できる「ホール測定」と、Li+リッチ領域でCEDLを定性的に評価できる「パルス応答測定」を組み合わせ、広い範囲でCEDLを評価した。この結果、LiNbO3/H-diamond界面とLi3PO4/H-diamond界面のCEDLは電圧依存性が大きく、リチウム固体電解質で観測されるスイッチング応答速度に比べ、1桁以上も加速または減速効果を引き起こすことが分かった。
また、LiNbO3デバイスのパルス応答測定結果から、LiNbO3/H-diamond界面のEDL厚さは5Åで、負電荷Li+空孔の計算密度は1.21mmol/cm3であることも確認したという。
今回の研究成果は、東京理科大学理学部第一部応用物理学科の樋口透准教授、同大学大学院理学研究科の高柳真博士(2022年博士課程修了)、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の土屋敬志主幹研究員、寺部一弥MANA主任研究者らによるものである。
関連記事
- マグネシウム酸化物の合成/構造解明に成功
東京理科大学は2023年2月15日、高い放電容量を持ち、蓄電池の正極材料として使用可能なマグネシウム酸化物の合成および結晶構造、電子状態の解明に成功したと発表した。 - アルムと帝人、次世代医療サプライチェーンの実証試験を開始
帝人と医療ICTベンチャーのアルムは2022年11月17日、脳血管内治療計画プログラムと電子タグシステム(RFID)を活用した次世代医療サプライチェーンの実証試験を共同で開始したと発表した。 - 東京理科大ら、2000℃以上の高熱に耐える材料開発
東京理科大学や横浜国立大学、物質・材料研究機構(NIMS)らによる研究グループは、2000℃以上という極めて高い温度に耐えられる、ジルコニウム(Zr)−チタン(Ti)合金ベースの「炭素繊維強化超高温セラミックス複合材料(C/UHTCMC)」を開発した。 - 準ホモエピタキシャル成長で有機半導体を開発
東京理科大学は、ルブレン単結晶基板(RubSC)上に、その誘電体(fmRub)をエピタキシャル成長させたところ、作製した薄膜は層間における結晶格子のずれが極めて小さい「準ホモエピタキシャル成長」していることを実証した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.