高伝導率の配線をPP基板上に直接作製する技術を開発:従来に比べ簡便かつ低コストに
東京理科大学は、大気圧下の室温で直接プラスチックフィルム上に多層カーボンナノチューブ(MWNT)配線を行うことができる新たな方法を開発した。レーザーを照射する条件によって、MWNT配線の抵抗値や線幅を変えることもできるという。
レーザー照射条件によりMWNT配線の抵抗値や線幅を選択可能
東京理科大学先進工学部電子システム工学科の生野孝准教授らによる研究グループは2023年3月、大気圧下の室温で直接プラスチックフィルム上に多層カーボンナノチューブ(MWNT)配線を行うことができる新たな方法を開発したと発表した。従来に比べ簡便かつ低コストで作製することが可能となる。レーザーを照射する条件によって、MWNT配線の抵抗値や線幅を変えることもできるという。
カーボンナノチューブ(CNT)は、極めて軽く構造的にも安定しており強度も高い。熱伝導性や電気伝導性にも優れている。特に近年は、複数の単層CNTが重なったMWNTを用い、伝導率の高い配線をプラスチック基板上に作製するための研究なども広く行われている。
作製方法の代表的な技術が「レーザー誘起順方向転写(LIFT)法」や「熱融合(TF)法」である。ところがこれらの方法は、配線抵抗を制御するのが難しかったり、高価な専用設備が必要になったりと、いくつかの課題もあったという。
研究グループは今回、ポリプロピレン(PP)基板上にMWNT配線を直接作製する手法を開発した。具体的には、ホットプレート上にPP基板を置き70℃に加熱。大気圧下の室温でMWNT分散液を噴霧して、PP基板表面をコーティング。その後にレーザーを照射した。さらに15分間の超音波処理を施し、窒素ガスを吹き付けて表面を洗浄して、所望のMWNT配線を作製した。
作製したMWNT配線の特性を測定した。この結果、MWNT配線の抵抗は、レーザーの照射条件によって、0.789〜114kΩ/cmの範囲で制御可能であることや、線幅がレーザー強度に依存することが分かった。
MWNT配線形成のメカニズムについても調べた。電子顕微鏡で配線を観察したところ、レーザーの中心では厚いMWNT/PP複合体が、レーザーの端では薄いMWNT/PP複合体が、それぞれ形成されることが判明した。しかも、レーザー出力が大きくなると、MWNT/PP複合体の厚さが増し、抵抗が減少することも明らかになった。
研究グループは、MWNT配線の柔軟性も調べた。この結果、1000回の曲げサイクル後でも抵抗値は変化せず、ほぼ一定であった。その理由として、MWNT/PP複合体が高密度であるため、繰り返し折り曲げても導電経路数に影響しないことを挙げた。
さらに、PP基板上にある未使用MWNTの再利用について検証した。レーザーが照射されていない領域にあったMWNTを回収し、新たなMWNT水溶液を調製した。このMWNT溶液を用いて製造したMWNT配線の抵抗を測定したところ、その値は従来と変わりがなかったという。
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