930km離れた水中ロボットの遠隔制御に成功:海の産業革命の実現へ
ソフトバンク、東京海洋大学らの研究チームは2023年3月3日、水中の狭隘(きょうあい)空間を移動する水中ロボットをリアルタイムで遠隔制御する実証実験に成功したと発表した。
ソフトバンク、東京海洋大学らの研究チームは2023年3月3日、光の明滅を信号に変換する技術であるOCC(Optical Camera Communication)を活用した無線通信技術によって、水中の狭隘(きょうあい)空間を移動する水中ロボットをリアルタイムで遠隔制御する実証実験に「世界で初めて」(同研究チーム)成功したと発表した。
今後、アクセスが困難な地域や海域においても水中ロボットや機器のリアルタイムでの遠隔操作が可能になるとともに、データの収集や観測、機器の監視や保守のための現地調査の低減といった効果が期待できる。
今回の実証実験は、Beyond 5G(第5世代移動通信)による海の産業革命を目指し、北海道厚岸翔洋高等学校 教頭の柴田耕一郎氏の協力を得て行ったもので、実験場所の厚岸湖(北海道厚岸町)とソフトバンクの本社(東京都港区)間の約930kmを無線通信で接続し、遠隔で水中ロボットのリアルタイム制御を行った。
無線通信には、水中ロボットや水中のIoT(モノのインターネット)機器などを遠隔制御するため、地上の通信ネットワークではカバーできない外洋や極域などの海域までカバレッジを拡張するNTN(Non-Terrestrial Network、非地上系ネットワーク)としてThuraya Telecommunications Company(以下、Thuraya)の通信衛星を使用している。
海中での通信は、電波が著しく減衰するため、クジラやイルカが使うエコーロケーションでも知られるような音波を使った音響通信が用いられてきた。しかし、音響通信は、伝搬速度が1秒間に1500m程度と非常に遅く、伝送できる情報量も数十〜数百キロビット/秒(kbps)程度である。外来ノイズの他、海面や海底からの反射によるマルチパスの影響を受けやすく、音源から球面状に拡散することから、精密な測位やリアルタイム性、セキュリティ面など、多くの課題があった。加えて、使用できる海域や水深、周波数に制約があるため、水中ロボットなどをリアルタイムで制御するための伝送レートを確保することが難しい。
光無線通信は、音響通信に代わる安定した通信手法として、大容量・低遅延の可視光を使用した無線通信技術を活用する研究が各国で進められてきた。しかし、光無線通信の特性として、双方の光が見えていることが求められるため、通信距離は約100m程度が限界で、高速通信を実現するには照射角が狭い高出力のレーザー光を活用して光軸を合わせ続ける必要があり、移動体などとの通信には高精度な光トラッキング技術の開発/実装が必須だった。
ソフトバンク、東京海洋大学らの研究チームは、遠隔地に展開する無人ロボットに対してThurayaの通信衛星を利用した無線通信を経由して制御命令を送信し、OCCの信号に変換して他の無人ロボットなどの制御や観測データの取得を実現する遠隔制御技術を開発した。
制御命令は、衛星携帯により音声やデータで伝送されると、厚岸湖上に設置した水中ロボットの指令システムに入力されて、OCC発光信号として親機から子機に伝送される。子機側では、受診したOCC信号を変換し、内部のコンピュータで制御命令として処理され、水中ロボットを上下・前後・左右方向へ自由に動かすための装置などを制御して、機体を動作させる。動作が完了すると、子機から親機に向けて動作完了の信号をOCCで伝送し、信号を受けた親機は衛星携帯を介して、遠隔地の操縦者に状況を知らせる仕組みだ。また、子機に搭載された水温計や深度計のデータも同様に、親機を通じて遠隔地の操縦者に伝送できる。
今後について、同研究グループはリリースで、「水中光無線通信技術によって、実用的な水中/海中無線通信ネットワークの構築が可能になることで、海洋産業の効率化や新産業の創出など大きな経済効果が期待される。近距離や中距離の多対多の光無線通信や、通信距離1kmを超える長距離の1対1の水中光無線通信の実現によって、全球的な海中通信網の確立を目指す」と述べた。
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