大規模言語モデルの未来は「オープンソース化」にある?:「AIの民主化」問題の解決策にも(2/2 ページ)
大規模言語モデル/生成AI(人工知能技術)への関心が急速に高まる一方、それらの技術のコントロールが、一部の企業にあることを懸念する声も少なくない。業界の専門家たちは、「AIの民主化」に関する問題解決の糸口は、大規模言語モデルのオープンソース化にあると語る。
オープンソースで差異化もしやすくなる
企業が微調整できるようにトレーニングされた基盤モデルをオープンソース化することで、企業は独自データの機密保持を実現できる。さらに、単にChatGPT APIを使用するよりも、より大きな差異化を図ることも可能だ。
NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏は、2023年3月に開催されたGTC(GPU Technology Conference)の基調講演で「われわれは、“AIのiPhone”の瞬間にいる」と述べた。「スタートアップ企業は破壊的な製品やビジネスモデルを構築しようと競争していて、既存企業は対応に追われている。生成AIの登場で、世界中の企業が、『AI戦略を立てなければならない』という危機感を抱くようになった」(同氏)
この危機感から、多くの企業が、OpenAIなどが提供するAPI(Application Programming Interface)を利用して、自動化や共創に取り組み始めている。だが、API上にビジネスを構築することは、競合他社に容易に模倣される可能性もあり、リスクが高い。
Huang氏は講演で、「モデルをカスタマイズする必要があるのは一部の顧客だけだ」と語ったが、NVIDIAは、トレーニングしたモデルを微調整するための強力なツールを、企業向けに構築している。
高い実装コストも課題に
コストが掛かるのはトレーニングだけではない。大規模なLLMを実装するためのコストもまた、高くつく。SemiAnalysisのアナリストの試算によれば、ChatGPTの推論には、クエリ1つ当たり0.36米セント、1日当たりでは約70万米ドルのコストが掛かるという。
MetaのAI責任者であるYann LeCun氏は、LLMが少数の人の手に渡ってしまうことに、特に懸念を示していない。同氏はAI倫理を議論するライブ配信に登壇した際、「LLMは、かなり早く民主化されるのではないか」と語った。「よりシンプルなLLMが、より広く利用されるようになり、モバイルデバイスのようなエッジ端末にも搭載されるようになるかもしれない」(同氏)
LeCun氏もまた、LLMの未来はオープンソース化にあると信じて疑わない。同氏は「LLMや、そのようなシステムは、研究開発や製品開発に向け、さまざまなレベルのオープン性で間もなく利用できるようになるだろう」と語った。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- AIチップで「GoogleがNVIDIAを打倒」は誇張しすぎ
Googleの研究者らは2023年4月、自社製AI(人工知能)アクセラレーターチップ「TPU v4」の性能について説明する論文を発表。これをメディアが「Googleが最新AIスーパーコンピュータを披露し、NVIDIAを打倒したと主張」などと報じたが、それは誇張しすぎといえる。 - AIチップ/RISC-Vプロセッサの新興企業、日本に本格進出
著名なハードウェアエンジニアであるJim Keller氏が率いるスタートアップTenstorrentが、本格的に日本に進出した。まずは自動車分野をターゲットに、AIアクセラレーターや、RISC-VプロセッサのIPを提供する。 - 「汎用人工知能」の研究、一時的に止めるか否か
汎用人工知能(AGI)の進化をめぐって、論争が巻き起こっている。虚偽の情報の発信など、人間にとって危険性がないことが証明されるまでは、AGIベースのシステムを世界規模で展開すべきではない、と警告する側と、それに異議を唱える側が、互いの主張を戦わせている。 - 初のWoW技術適用で大幅性能向上、Graphcoreの新IPU
Graphcoreが、第3世代のIPU(Intelligence Processing Unit)を発表した。業界初となる3D Wafer on Wafer(以下、WoW)技術適用のプロセッサだ。 - EUのAI規則案、「ハイリスクなAI」の定義が重要に
2024年に完全施行される予定の、欧州のAI規則案。これについて米国のある弁護士が、従来使われてきたローリスクのAI技術も同規則案に含まれるべきなのか、疑問を投げかけている。