1つのCPUを作って「完コピ」、Appleの理想的なスケーラブル戦略:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(74)(1/3 ページ)
Appleのプロセッサ「M2」シリーズが出そろった。今回は、そのM2シリーズの解析結果から、Appleのチップ開発戦略をひもといてみよう。
4つそろった「M2」シリーズ
Appleは2022年、2023年と、相次いで第2世代のApple Mac用プロセッサ「M2」を搭載した製品を発売している。2023年6月には最上位のプロセッサ「M2 Ultra」を搭載した「Mac Pro」と「Mac Studio」を発表した。本稿ではスケジュールの関係からM2 Ultraを入手できておらず(近日入荷予定)M2 Ultraのチップ解析は今夏の予定となっている。
M2は、2022年6月発売の「MacBook Pro」に採用されたのが最初である。8カ月後の2023年2月には、CPU/GPUコア数を増やしグレードアップした「M2 Pro」「M2 Max」を搭載したMacシリーズが発売されている。さらに2023年6月には、冒頭で紹介したようにM2 Ultraを搭載したモデルも発表された。2020年にリリースされた「M1」シリーズも、「M1」「M1 Pro」「M1 Max」「M1 Ultra」と4モデルが活用されているので、M2でも全ラインアップがそろったことになる。
図1は2023年2月に発売されたMacBook Proの基板と、M2 Maxプロセッサの様子である。
基板は左右2カ所がくり抜かれた形状をしており、くり抜かれた場所には空冷用ファンが設置されている。空冷ファンからヒートパイプでつながれたヒートシンクがプロセッサを覆っている。
プロセッサの右側と上側にはApple開発の電源IC、基板の裏面にもApple開発の電源系ICが5個備わっている。Appleは、プロセッサだけでなく電源ICも平行して開発しており、プロセッサと電源ICを合わせると8つのチップがApple製となっている。プロセッサには、M2 Maxのプロセッサ型名である「APL1111」が刻印されている。
4000ボールを超える端子を備えた「M2 Max」のパッケージ
図2は、M2 Maxパッケージを基板から取り外し、パッケージの端子面と、パッケージを覆う金属LIDを取り外した後の様子を示した写真である。
パッケージ裏面には4000ボールを超える端子が備わっている。現在、大規模チップのパッケージは3000を超える端子を備えるものも増えている。1パッケージで7000端子を超えるものも出始めている。
パッケージ内には、プロセッサだけでなくメモリや特性を上げるためのさまざまな部品が搭載されていて、電源補強、ワイドビット化による端子の増加、機能集約による端子の増加など、システムそのものが収まっている。
M2 Maxでは、端子の間に小粒なシリコンが27個も設置されている。これらはシリコンキャパシターだ。従来はセラミックコンデンサーを用いていたが、Appleではシリコン(容量の大きい)を用い、プロセッサの直上に配置することで電源安定化などの特性強化に用いている。
LIDを取り外すとパッケージ内には5つのチップが現れる。真ん中はM2 Maxプロセッサ。プロセッサの上下にはモールドパッケージに収まったLPDDR5がトータルで4個存在する。これら4個は同じものである。4個のLPDDR5は、おのおのが内部に8枚のシリコンと2枚のダミーシリコンを持っている。1個のLPDDR5のパッケージ内には10個のシリコンが入っているわけだ。
ダミーシリコンは、Apple以外でも多くの会社が活用する技術である。ダミーシリコンは、その名の通り、回路が搭載されていないシリコンだ。これをシリコンの横や上下に設置することで、厚さを均等にしたり、パッケージの強度を高めたり、放熱性を改善したりするなど、特性面の向上で活用されることが多い。M2 Maxの場合、プロセッサを真ん中に設置することでメモリまでの距離を上下で均等化することができている。下位モデルのM2 Proでもパッケージ内のプロセッサとLPDDR5は同じ配置関係になっている。
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