チップレットは「ムーアの法則」を救うのか?:今後数年で主流になる可能性(1/3 ページ)
微細化による「ムーアの法則」がスローダウンする中で注目が集まるチップレット技術。本稿ではそのメリットや課題、業界の最新動向を紹介する。
NVIDIAのCEO(最高経営責任者)であるJensen Huang氏と、MediaTekのCEOであるRick Tsai氏は2023年5月に台湾で開催したプレスカンファレンスで、NVIDIAがMediaTekにGPUチップレットを供給予定だと発表した。NVIDIAのAI(人工知能)/グラフィックスIP(Intellectual Property)と共に、車室内アプリケーション向けとして開発する車載SoC(System on Chip)に搭載するという。
NVIDIAにとって、チップレットは新しいものではない。今回の発表で、多くの半導体メーカーが、この先数年間ムーアの法則を維持していく上で期待するチップレットというコンセプトが、より高く評価されることになったといえる。
NVIDIAのCEO、Jensen Huang氏(右)と、MediaTekのCEO、Rick Tsai氏(左)は2023年5月、NVIDIAがMediaTekにGPUチップレットを供給予定だと発表した[クリックで拡大] 出所:NVIDIA
チップレットの背景にあるアイデアは、決して新しいコンセプトではない。業界はこれまで数十年間にわたり、マルチチップモジュール(MCM)を製造してきた。例えば、Mostekは1979年、2つの16kビットDRAMチップ「MK4116」をデュアルキャビティ構造のセラミックパッケージに搭載し、32kビットDRAM「MK4332D」を開発した。またIntelは1995年末に、CPUチップとSRAMチップを組み合わせた「Pentium Pro」を発表している。MostekとIntelはこれらのMCMによって、それぞれの半導体プロセスの限界を超えて「More than Moore(モアザンムーア)」を実現するパッケージデバイスを生み出すことができたのだ。
つまり、MCM形式のコパッケージ化された半導体は、かなり前から存在している。チップレット技術は、より多くの技術が搭載されているが、多くの点でMCMのコンセプトの延長にあるにすぎないといえる。
近代的なチップレット技術をいち早く採用したのは、旧Xilinxが2011年末に発表したFPGA「Virtex-7 2000T」だ。このFPGAと、その直後に発表された「Virtex-7 580HT」は、XilinxとTSMCが共同開発したチップレット・オン・シリコンインターポーザ技術を採用している。このシリコンインターポーザ技術は進化し、現在ではTSMCが「CoWoS(Chip on Wafer on Substrate)」として提供している。
チップレットの2大メリット
XilinxのVirtex-7 2000Tおよび580HTは、チップレットが提供する最大のメリットのうち2つを実証している。
Virtex-7 2000Tに関しては、Xilinxはシリコンインターポーザを利用して、4つの28nmプロセスFPGAを1つのパッケージ上に組み込むことにより、モノリシック28nmダイで実現可能な規模をはるかに上回る大型FPGAを構築することに成功した。半導体メーカーはインターポーザを利用して、大規模ダイをモザイク状に組み立てることで、製造装置のレチクルサイズの限界を超えることが可能だ。
またVirtex-7 580HTは、FPGAチップレットの製造に適用されていた主流派の28nmデジタルCMOSプロセスでは28Gビット/秒(bps)トランシーバーを構築することが不可能だった時代に、Virtex-7 2000Tの4つのFPGAチップレットのうち1つを取り除き、28Gbpsのトランシーバーチップレットに置き換えている。
つまり、チップレットが提供する2つ目のメリットは、異なるプロセスノードや異なるファウンドリーで製造されたダイを、うまく組み合わせることができるという点だ。主流派や最先端のデジタルプロセスノードとは明らかに異なる重要なプロセスノードには、“アナログプロセス”や、“メモリプロセス”(特にHBM[High Bandwidth Memory]のメモリスタックなどのDRAMプロセス)の他、特にガリウムヒ素(GaAs)フォトニクスやSiC(炭化ケイ素)パワー半導体などの“高電流/高電圧プロセス”がある。
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