東京大、高伝導性オリゴマー型有機伝導体を開発:室温以上で金属状態を示す
東京大学は、導電性高分子をモデルとして、室温以上で金属化する新たな「高伝導性オリゴマー型有機伝導体」を開発した。既存物質に比べ100万倍の伝導度を達成したという。
既存物質に比べ100万倍の伝導度を達成
東京大学は2023年7月、導電性高分子をモデルとして、室温以上で金属化する新たな「高伝導性オリゴマー型有機伝導体」を開発したと発表した。既存物質に比べ100万倍の伝導度を達成したという。
東京大学物性研究所の森初果教授らによる研究グループはこれまで、高分子と低分子の間に位置するオリゴマー材料に着目してきた。2021年には、ドープ型PEDOTの単結晶モデルとして、最短の2量体オリゴマー型伝導体を発表した。ただ、共役系サイズが狭いなどの要因によって、伝導度は10-3Scm-1あるいは10-5Scm-1と低かった。
そこで研究グループは、溶解性補助などの機能を持つ複数のユニットを効果的に並べた配列構造を採用することにした。2種類のユニットを組み合わせた「P-S-S-P」という4量体の配列である。中央にかさばったSユニットが連続するため、分子自体がねじれてπ共役系が分断され、ドナー分子の溶解性と安定性が大幅に向上することが分かった。
ドナーがねじれた構造は、ドナーを酸化(電子放出)して有機伝導体とする時には解消され、π積層を阻害しない平面構造へと変化した。プラスの電荷を帯びたドナーと−1価の陰イオン(アニオン)は、酸化反応により1:1の割合で対となって積層し、ドナーが傾斜してπ積層したハの字型積層構造になるという。この積層構造には柱状の隙間があり、そこには0.2分子分の余剰アニオンが含まれていることが分かった。
開発した混合配列4量体塩の室温伝導度は、同じアニオンを持つ2量体塩と比べ6桁も上昇し、36Scm-1となった。この値はオリゴマー有機伝導体の中ではトップクラスとなり、室温以上だと金属的な電子状態だという。
これらの実験結果より、オリゴマーの構成ユニットは、その種類や配列を変えることで、集合体の立体空間と電子機能が制御できることを実証した。
今回の研究は、東京大学物性研究所の小野塚洸太大学院生(同大学新領域創成科学研究科在籍)、藤野智子助教(JSTさきがけ研究者)、森初果教授、分子科学研究所の中村敏和チームリーダーおよび、東京大学大学院新領域創成科学研究科の岡本博教授、宮本辰也助教、山川貴士大学院生らが、同大学物性研究所の亀山亮平大学院生(研究当時)、出倉駿特任助教(研究当時、現在は東北大学多元物質科学研究所助教)、吉見一慶特任研究員、尾崎泰助教授、リガクの佐藤寛泰研究員らの協力を得て行った。
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