電気自動車の将来を左右する充電インフラ(前編):福田昭のデバイス通信(413) 2022年度版実装技術ロードマップ(37)(1/2 ページ)
今回は、電気自動車の道路走行を支える充電インフラ(充電ステーション)の動向を説明する。
複雑な電気自動車(EV)の充電インフラ
電子情報技術産業協会(JEITA)が3年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2022年度版 実装技術ロードマップ」(書籍)を2022年7月に発行した。本コラムではロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、ロードマップの概要を本コラムの第377回からシリーズで紹介してきた。
本シリーズの第30回から、第2章第5節(2.5)「モビリティー」の概要をご説明している。第2章第5節(2.5)「モビリティー」は、第1項(2.5.1)「はじめに」、第2項(2.5.2)「自動運転と遠隔操作」、第3項(2.5.3)「電動化技術」、第4項(2.5.4)「EMC・ノイズ対策」、第5項(2.5.5)「日本のモビリティー産業界への提言」で構成される。
前回は、第3項(2.5.3)「電動化技術」から「2.5.3.3 インバータ構造の進化」の概要を述べた。今回は、「2.5.3.4 EV用インフラ(インフラストラクチャー)」の概要、すなわち電気自動車(EV:Electric Vehicle)の道路走行を支える充電インフラ(充電ステーション)の動向を説明する。
内燃機関の自動車(ガソリン車とディーゼル車)は通常、ガソリンスタンドで燃料を補給する。エネルギー補給のインフラはガソリンスタンドだけであり、単純かつ分かりやすい。これに対して電気自動車(EV)のエネルギー補給インフラ(充電インフラ)は複雑であり、理解には一定の労力を必要とする。
充電時間の長さが充電インフラの複雑さを招く
充電インフラが複雑である最大の理由は、充電(エネルギー補給)に必要な時間が長いことにある。まず充電器が2種類あることからして、ガソリン車およびディーゼル車とは違う。ガソリンスタンドにおける燃料補給は長くても5分程度で完了する。ところが充電器による充電時間の単位は「分」ではなく「時間」なのだ。
充電器には大別すると、「普通充電器」と「急速充電器」がある。普通充電器は比較的安価であり、一戸建ての駐車スペースや事業所の駐車場などに置かれることが多い。交流200V(専用コンセントあるいは普通充電器の出力)をEVに入力し、EV内部の充電器(車載充電器)で交流を直流に変換してバッテリー(リチウムイオン二次電池)を充電する。なお交流200Vの専用コンセントあるいは普通充電器は、ユーザーが新たに設ける必要がある。
専用コンセントおよび普通充電器の出力は交流200V、電流15Aというのが平均的な値なので、充電にはかなりの時間がかかる。例えば日産自動車のEV「リーフ」のバッテリー容量は初期型が30kW時(h)、現行型が40kW時(h)である。バッテリー残量が最低値(警告灯点灯時)からフル充電になるまでに初期型では10時間強、現行型では13時間強もかかる。昨年(2022年)6月に発売した軽乗用車規格のEV「サクラ」だと20kWhとバッテリー容量が少ないので、8時間弱で済む。それでもガソリン車に比べると恐ろしく長い。
日産自動車が2022年6月に発売した軽乗用車規格のEV「サクラ」(注:この写真はロードマップ本体には掲載されていない)。寸法(全長×全幅×全高:単位mm)は3395×1475×1655。車両重量は1070kg〜1080kg。出力は47kW。価格は249万3700円から[クリックで拡大] 出所:日産自動車
「急速充電器」は出力電圧が直流400V〜500V、電流が最大60Aといずれも高い。最低値(警告灯点灯時)から80%充電までに、30分前後の充電時間を想定する。普通充電器との大きな違いは、内部に交流を直流に変換しながら昇圧する回路を備えることと、車両の充電量を把握しつつ出力電流を制御していることだ。充電動作の始めは最大電流を出力する。充電量がある程度に達すると、出力電流を下げていく。
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