半導体不足は解消傾向も、受注残と戦う自動車業界:大山聡の業界スコープ(68)(1/2 ページ)
半導体不足の問題は、2023年前半には解消傾向にある。しかし、自動車業界では「半導体不足は解消した」と実感している方はまだ少数派のようだ。現状として何が起こっているのか、改めて整理しておきたいと思う。
ここ最近、車載半導体に関する問い合わせや講演依頼をいただくケースが増えてきた。自動車業界では「半導体不足は解消した」と実感している方はまだ少数派のようだ。あるいは、「半導体不足問題は2023年前半に解消見込み」と予測していた筆者に対して、「どうなっているんだ、話が違うじゃないか」という意味合いも込めての問い合わせのようにも感じられる。筆者としては、これまでの分析や見解を変更するつもりはないが、現状として何が起こっているのか、改めて整理しておきたいと思う。一部、記事の中には個人的な憶測(おくそく)も含まれていることをご了承いただきたい。
パワートランジスタ不足は改善傾向に
2023年の半導体市況はマイナス成長(前年比)から始まっていて、特にメモリ市場は需要低迷による供給過剰が深刻化した。一方で、自動車業界では半導体不足のために、計画通りの生産が出来ない状態が継続していたのである。ただし、最も不足していたパワートランジスタの供給体制が改善される見込みであることから、不足問題は2023年の前半に解消される、と筆者は予測してきた。この点については、本連載でもすでに詳細に述べている(関連記事:在庫過剰の半導体メーカー、半導体不足に悩む自動車メーカー、なぜ?)。
実際にパワートランジスタの2023年1月から6月までの出荷実績合計は、前年比21.1%増と極めて好調に推移している。これは同市場でトップシェアを誇るInfineon Technologies(以下、Infineon)の新しいパワートランジスタ専用工場で量産が始まったことを裏付けている、と言えよう。ただし、もう少し細かく見てみると、パワートランジスタの代表的製品であるIGBTは、2023年1〜6月の出荷数量合計が前年比13.0%増であるのに対し、もう1つの代表製品MOSFETの出荷数量は、同5.8%減と前年を下回っている。同製品の平均単価がジリジリと上昇し続けているのは、恐らく供給不足に伴う現象ではないだろうか。MOSFETの出荷数量の伸び悩みは、たまたまそうなっているだけなのか、それともデバイスメーカー側の供給戦略によるものなのか。筆者には判断がつかない。今後もMOSFET製品の出荷動向を注意深く見守る必要がありそうだ。言うまでもないが、MOSFETが1個足りないだけでもクルマは完成しない。
唐突ではあるが、下記グラフは台湾のVanguard International Semiconductor (VIS)の四半期別売上高を示したものである。同社はディスプレイドライバICとパワーマネジメントを主力製品とするファウンドリー(半導体受託製造専門企業)で、パワーマネジメントの売上高にはInfineonからのパワートランジスタ生産委託分が含まれている。Infineonとしては、自社工場のキャパが足りず、パワートランジスタの一部をVISに生産委託しているが、自社の専用工場が立ち上がれば、委託分を自社生産に切り替える可能性が高い、と筆者は見ている。実際にVISのパワーマネジメント売上高は、2022年第4四半期(2022年10〜12月期)、2023年第1四半期(2023年1〜3月期)と減少傾向にあったが、2023年第2四半期(2023年4〜6月期)にまた少し増えていることが分かる。これがInfineon向けの出荷増によるものかどうかは分からないが、この辺の動向も合わせて見守る必要があるだろう。
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