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本当は半導体売上高で第1位? AIチップ急成長で快進撃が止まらないNVIDIA湯之上隆のナノフォーカス(66)(4/4 ページ)

NVIDIAの快進撃が止まらない。背景にあるのは、AI(人工知能)半導体のニーズの高まりだ。本稿では、半導体売上高ランキングにおけるNVIDIAの“本当の順位”を探る。

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1984年と2023年の比較

 前掲のSemiconductor Intelligenceの記事には、非常に面白いことが書かれている。Semiconductor Intelligenceは1984年から半導体産業の分析を始めたのだという。そこで、半導体メーカー売上高トップ10について、1984年と2023年(予測)を比較してみたという(図8)。そこから何が分かったか?


図8:1984年と2023年の半導体メーカー売上高トップ10[クリックで拡大] 出所:Semiconductor Intelligenceの予測(参考

1)2023年のトップ10企業は全て創業30年以上

 Semiconductor Intelligenceは、「半導体業界のペースが速く、新興企業が数多く存在するにもかかわらず」、この結果になっており、「NVIDIA は 30 歳で最年少」と記載している。 NVIDIAがここ数年でブレークしたような事例はあるにせよ、半導体のトップ企業になるには、30年以上の歳月がかかるということである。5〜10年でトップ10入りする、などということはできないということだ。

2)ファブレスの台頭とTSMCの役割

 1984年のトップ10企業は全て垂直統合型(IDM)だったが、2023年のトップ10企業にはファブレスが4社(NVIDIA、Broadcom、Qualcomm、AMD)ランクインしている。加えて、Intel、SK hynix、Texas Instruments(TI)、Infineon Technologies、STMicroelectronicsの5社はいずれも外部ファウンドリーを利用している(SK hynixはSSDのコントローラーをTSMCに生産委託している)。

 そのファウンドリーには、TSMC、Samsung、GlobalFoundries、UMC、SMIC等があるが、トップ10企業の中のファブレス4社と外部ファウンドリーを利用している5社の合計9社は、いずれもTSMCに生産委託をしている。要するに、TSMC抜きに、現在の半導体産業は成り立たないことになる。

3)上位10社の合計市場シェアは不変

 半導体市場は、この39年間で260億米ドルから5000億米ドルへ約20倍に成長した。ところが、ランキング上位10社の合計市場シェアは、1984年が約63%、2023年が約62%とあまり変わらない。これについて、Semiconductor Intelligenceは、「上位企業は比較的安定している」と述べている。

 しかし、上位企業の顔ぶれは大きく変わった。1984年と2023年のどちらにもトップ10にランクしているのは、TI、Intel、AMDの3社しかない。1984年にトップ10にランクされていた日本企業(NEC、日立、東芝、富士通)は、2023年には1社もランクインしていない。

 ここから導き出される教訓は、半導体メーカーは、常に成長し続けなければ生き残れないということである。

成長するか、消えるか

 EE Times Japanの「モノづくり編集のこぼれ話」(2023年9月25日)に面白い記述があった。

「半導体メーカーには3つのタイプがある。巨大であるか、ニッチであるか、それとも消えるかだ。Intelはニッチなメーカーでいるには大き過ぎる。それ故、“超巨大”であり続けるしかない」

 今回の記事の主役のNVIDIAは、30年前の1993年に、ゲームやマルチメディア用の3DグラフィックスICを開発するためにベンチャーとして設立され、1999年にGPUを開発した。その当時は、GPUはニッチな市場だったと思う。

 そのNVIDIAが2012年にAI半導体市場に参入し、TSMCがGPU専用のパッケージ「CoWoS」を開発して、その10年後にAI半導体市場が大爆発した。その結果、NVIDIAは“超巨大”のIntelすらも売上高で抜いてしまうと予測されている。

 ここから言えることは何か? 半導体ビジネスで生き残っていくためには、巨大だろうと、ニッチだろうと、成長しなければならないということではないか。なお、ここでいう成長とは、「利益を上げながら売上高を増大すること」と定義しておく。

 そうすると、上記の「モノづくり編集のこぼれ話」の記述は以下のように書き替えることができる。

「半導体メーカーには2つのタイプがある。成長して生き残るか、それとも消えるかだ」

 この教訓は半導体メーカーだけに留まらないかもしれない。時と場合によって「成長の定義」を変える必要はあるが、あらゆる産業、組織、そしてヒトにも当てはまるのではないか? 

 あなたの会社は成長していますか? そして、あなたは成長していますか?(自分も生き残るためには成長しなければならない……)


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筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。


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