半導体製造装置の「中古市場」を作り出す 米新興企業:レガシー装置を眠らせない
米スタートアップのMoov Technologiesは、中古の半導体製造装置を手掛けるビジネスに活路を見いだしている。
半導体不足で浮き彫りになったレガシー装置の課題
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック時代に発生した半導体不足は、ひとまず終わりを迎えたようだが、半導体業界が今後も、サプライチェーンの柔軟性の欠如や、生産コストの高さ、世界貿易を形成する地政学的な潮流の変化などにより、課題に直面していくであろうことは明らかだ。
ここ数年間で見られたように、世界の半導体製造の混乱によって指数関数的な波及効果が生じた。実際のところ、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが行った調査によると、1つの製造センター(ファブ)の生産が10日遅れた場合、サプライチェーン下流での混乱が12カ月間に及ぶ可能性があるという。
しかし現実には、生産の混乱は常に発生している。製造装置が故障すれば、新しい部品や、システム全体の交換が必要になるかもしれない。現在広く使われている半導体チップの大半は、成熟プロセスで製造されているため、もう生産されていない可能性がある装置の交換部品(または装置全体)を見つけ出すことは、控え目に見ても非常に困難だといえる。
米国議会調査局(CRS:Congressional Research Service)が2021年に発表したレポートには、「200mmウエハー対応の製造装置は、もはや容易には入手できない。レガシーの装置で製造したチップは、償却済みの装置で製造した場合にしか必要な利益を得ることができないため、企業はそのような古いチップを製造する工場への新たな投資を行うことに消極的だ」と記されている。このような状況から、200mm工場への投資だけでは旧型チップの需要に十分対応できないため、中長期的にさらなる半導体不足が生じる可能性がある。
この問題を簡潔にまとめると、「世界的に信頼されている大多数の半導体チップを生産するために必要な装置は、入手困難な上、高価過ぎて新品を調達することができない」ということになる。その一方、大手半導体メーカーは一般的に、数十年の寿命を持つ製造装置に投資をして、それを2〜5年間使用した後、遊休資産として眠らせている。これはつまり、レガシー技術や既存技術の生産に使える半導体製造装置の供給自体は可能なので、“(供給を)オンライン化”する必要があるということだ。
潜在的な規模は巨大? 製造装置の中古市場
歴史的に見ると、半導体装置の再販市場は断片化されてきた。取引は主にオフラインで行われ、データや保証は、仮にあったとしても非常に少ないという状態だった。
半導体製造装置のセカンダリーマーケット(中古市場)はこれまで、主要装置市場全体の約5〜10%と推測されていた。しかしこの数字は、もし安全かつ効率的な方法があればファブ間で取引できたであろう供給と需要を、大幅に過小評価している。
実際、筆者がCEO(最高経営責任者)を務めるMoov Technologiesが2022年に行った調査では、回答した80社のうち、現在使用していない装置を他のファブに売却したいと考えている企業が57%、中古装置に割り当てる調達予算を将来的に増額したいと考えている企業が43%という結果になった。2023年9月に行った別の調査では、業界の回答企業176社のうち、実に81%が、「中古の半導体製造装置を調達する上で最大の障壁となっているのは、信頼性だ」との見解で一致している。
半導体製造装置のための統一されたグローバルな再販市場は、供給/需要の両面で難しいものではないということは明らかだ。資本設備のサプライチェーンの柔軟性を高めるために克服すべき独自の課題として挙げられるのは、信頼性と透明性、効率性である。
中古装置の購入を検討しているメーカーにとって必要なのは、世界の取引規制に準拠した装置が、望んだ時に期待通りの状態で確実に届くという、信頼できるプロセスだ。装置の廃棄/収集/売却を決断するファブにとっては、中古装置の市場価値に関する質の高いデータと、装置を売却するための効率的な販売チャンネルにより、ファブ間でより多くの装置を“再循環”するための道が開かれることになるだろう。
中古半導体製造装置の販売を手掛けるMoov Technologiesは、2017年に設立された米国企業だ。当社は現在、40億米ドルを超える利用可能資産を取り扱っている。われわれが過去6年間でMoov Technologiesを成長させることに成功したのは、半導体メーカーの信頼を得るための仕組みを確立したからだ。この仕組みには、安全な取引や、買い手と売り手の検証、相対価格データ、デジタル装置検査、リアルタイムの物流追跡、コンプライアンス支援などが含まれる。
最近では、ファブが購入した装置が自社の仕様に合わなかった場合、30日以内に返品すれば無条件で全額を返金するという、返金保証プログラムの拡充を発表したところだ。
われわれの目標は、中古市場を実行可能な調達/譲渡戦略として拡大していくことである。
半導体製造装置の世界中古市場は、このような高価値資産に対し、切望されていた流動性を提供することができる。何もしなければエネルギーを浪費したり電子廃棄物になってしまう恐れがある製造装置を再循環させることは、特に中小メーカーが生産能力を拡大していく上で重要になるだろう。変化する需要に対応するための柔軟性を高めつつ、より持続可能な半導体製造業界を構築できる一助となるはずだ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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