エネルギー密度1.6倍のリチウムイオン電池を開発:高価なコバルトを用いずに実現
東京大学は、高価なコバルトを用いずに、エネルギー密度が従来比1.6倍となる「リチウムイオン電池」を開発、安定動作に成功した。
「電解液」と「電極」に起因する2種類の副反応をできる限り抑制
東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫教授とコ ソンジェ(Ko Seongjae)助教らによる研究グループは2023年10月、高価なコバルトを用いずに、エネルギー密度が従来比1.6倍となる「リチウムイオン電池」を開発、安定動作に成功したと発表した。
リチウムイオン電池の正極材料には長年、安定性などの観点からコバルトが用いられてきた。ただ、コバルトは高価な希少金属で、環境汚染の危険性が高いといわれている。その上、産出国が限られており、供給面での安定性も懸念されていた。コバルトの代替材料としては、リン酸鉄リチウム(LiFePO4:LFP)の採用が本格化している。しかし、エネルギー密度が従来に比べ低下するなど、課題もあった。
こうした中で、正極材料には高電圧を発生する「LiNi0.5Mn1.5O4」を、負極材料には高容量の「SiOx」を採用したリチウムイオン電池が新たに提案された。ところが、高電圧作動時の劣化を抑制できず、安定動作を実現するまでには至らなかったという。
そこで研究グループは、「電解液」と「電極」に起因して、電池内部で起こる2種類の副反応をできる限り抑制し、電圧制限を撤廃できる電解液を新たに開発した。
新たな電解液の開発に当たっては、主に3つの点に配慮した。1つ目は「正極側で副反応が起きない溶媒の採用」。2つ目は「負極側で副反応を防ぐための保護被膜を形成できるリチウム塩の選択」。そして3つ目が「負極の副反応を抑制しつつ、正極側でも副反応を起こさないようにリチウム塩の濃度を制御」することである。
これらに加え、「SiOx負極表面に膨張収縮耐性を付与」「正極からの遷移金属溶出を防止」「アルミニウム正極集電体の腐食を防止」なども行った。この結果、正極にLiNi0.5Mn1.5O4を、負極にSiOxを用いたリチウムイオン電池で、繰り返し1000回の充放電を行い、80%の初期容量維持率を確認するなど、実用レベルの安定動作を確認した。なお、生産についても既存の製造ラインをそのまま活用できるという。
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