n型有機半導体、高移動度で大面積塗布を可能に:有機溶媒への溶解性を向上
東京大学や筑波大学などによる研究グループは、高移動度の電子輸送性(n型)有機半導体を開発した。同時に、塗布法を用い大面積の単結晶製膜にも成功した。
試作したOFETは大気下で1cm2V-1s-1超の移動度を観測
東京大学や筑波大学などによる研究グループは2023年9月、高移動度の電子輸送性(n型)有機半導体を開発したと発表した。同時に、塗布法を用い大面積の単結晶製膜にも成功した。
研究グループは、n型有機半導体「PhC2-BQQDI」に着目した。この結晶構造では、2つのフェネチル基が重要な役割を担っているという。このうち片方を柔軟なアルキル基に置き換えれば、塗布法を用い数分子層厚の単結晶を大面積に製膜でき、特性にも優れた有機電界効果トランジスタ(OFET)を開発できると考えた。
そこで今回は、異なる置換基を持つ非対称な分子を合成するため、フェネチル基とアルキル基を逐次導入する新たな合成法を考案した。フェネチル基および、長さが異なるアルキル基を導入して結晶構造解析を行ったところ、炭素数5を持つ「PhC2-BQQDI-C5」では、炭素数5のアルキル基が、対岸のフェネチル基の一部を模倣した構造になることが分かった。
PhC2-BQQDI-C5分子は、結晶中でPhC2-BQQDIの分子を模倣した形で存在するため、結晶構造全体でよく似た規則構造を形成することが明らかとなった。
研究グループは、有機溶媒への溶解性向上と、規則正しい結晶構造を実現した。これにより、PhC2-BQQDI-C5を用いれば、塗布法による大面積単結晶の製膜が可能になることを確認した。これまで、数ミリからセンチ級の大きさを持つ単結晶の製膜に成功しているという。
また、試作したOFETを用いて特性を評価したところ、大気下で1cm2V-1s-1を超える移動度を観測した。しかも、PhC2-BQQDIと同様の大気安定性や熱ストレス耐性が得られることも確認した。
今回の研究成果は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の岡本敏宏准教授(現在は東京工業大学物質理工学院応用化学系教授)、ユー クレイグ ペイチ特任助教(研究当時)、熊谷翔平特任助教(現在は東京工業大学物質理工学院応用化学系特任准教授)、竹谷純一教授、筑波大学数理物質系の石井宏幸准教授、北里大学理学部の渡辺豪准教授(現在は北里大学未来工学部教授)、理化学研究所創発物性科学研究センターの橋爪大輔チームリーダーらによるものである。
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