MCUサプライヤーがTinyMLプラットフォームと組む理由:InfineonはなぜImagimobを買ったか
Infineon TechnologiesがTinyML新興のImagimobを買収したことは、組み込みシステムにAI/MLの利点をもたらすため、MCUサプライヤーとTinyMLプラットフォームプロバイダーが協力する必要があることを強調している。
Infineon Technologies(以下、Infineon)が2023年5月にスウェーデンのストックホルムに拠点を置くTinyMLプラットフォームのサプライヤーであるImagimobを買収したことは、センサーデータを含む自動化タスクに使用されるこの人工知能(AI)技術の導入や発展において、半導体業界は、どのような立場にあるのかという根本的な疑問を提起している。
ほとんどのTinyMLアプリケーションがマイクロコントローラー(MCU)を使用してAIモデルを展開するのであれば、なおさらだ。実際、MCUは「Artificial Intelligence of Things(モノの人工知能)」または「AIoT」と呼ばれる、AIとIoT(モノのインターネット)が交わる新しい分野の中心にある。InfineonのIoTコンピューティングおよびワイヤレス担当バイスプレジデントを務めるSteve Tateosian氏は、「AIoTは、TinyMLによって実現される自然な進化だ」と述べている。
では、TinyMLは、機械学習(ML)と組み込みシステムの間のギャップをどのように埋めるのだろうか。MCUやその他の組み込みプロセッサのサプライヤーは、実環境に対応したディープラーニングモデルを促進する上でどのような役割を果たすのだろうか。これは、InfineonによるImagimob買収や、組み込みプロセッサとMLソフトウェアハウス間のその他の提携によって、ある程度明らかになっている。
まず、必要なのはより洗練されたTinyMLモデルで、特定のユースケースに向けたソフトウェアソリューションレベルでのさらなる技術革新が必要となる。ここで、ImagimobがInfineonによる買収の前に米国の新興企業Syntiantのような組み込みプロセッササプライヤーと緊密に協力してきたことにも触れておくべきだろう。Imagimobは、2022年にSyntiantのニューラルデシジョンプロセッサ「NDP120」でTinyMLプラットフォームのデモを行った。
TinyMLプラットフォームを活用したAIチップを使用すると、ビジョンやサウンドイベント検出、キーワードスポッティングおよび音声処理機能などさまざまなアプリケーションに迅速かつ簡単に実装が可能となる[クリックで拡大] 出所:Synaptics
Infineonも、TinyMLベースのAIモデルの別のサプライヤーであるEdge Impulseと提携して、エッジベースのMLアプリケーション向けMCU「PSoC 6」を用意している。Edge Impulseのプラットフォームは、データセットの収集と構造化、既製のビルディングブロックを使用したMLアルゴリズムの設計、リアルタイムデータを使用したモデルの検証、そして、完全に最適化され実環境に対応した結果のPSoC 6などのMCUへの展開といったプロセス全体を効率化する。
自社のMCUでのTinyML採用の障壁を下げる
Infineonは、TinyMLベースのAIモデルに特化したソフトウェアハウスと協力することで、自社のMCU上でTinyMLモデルを実行する際の障壁を下げたいと考えた。ImagimobやEdge Impulseなどのソフトウェアハウスが提供するTinyMLプラットフォームを使用すると、開発者はデータ収集からエッジデバイスへの展開までを数分で実行可能となる。
このような提携は、サウンドイベント検出やキーワードスポッティング、転倒検知、異常検出、ジェスチャー検知などのMLアプリケーションの採用と高速化を目的としている。MCUサプライヤーは、スマートでフレキシブルなバッテリー駆動デバイスの消費電力がマイクロワットレベルになる時代に向けて、TinyMLの採用を加速しようと努力している。
組み込みシステム開発者は、Imagimob AIを用いて、オーディオ、ジェスチャー認識、予知保全などさまざまなユースケースに対応した実稼働対応モデルを構築している[クリックで拡大] 出所:Imagimob
米国の市場調査会社であるABI ResearchでAIおよびMLリサーチアナリストを務めるDavid Lobina氏は、「MLモデルは、環境からのあらゆるセンサーデータに適用できる。しかし、TinyMLで最も一般的なアプリケーションは依然として、アンビエント(周囲)センシングとオーディオ処理だ」とLobina氏は述べている。
ImagimobのAIプラットフォームには、転倒検知のスタータープロジェクトが組み込まれている。これは、メタデータ(動画)を含む注釈付きのデータセットと慣性計測ユニット(IMU)のデータを用い、ベルトに装着されたデバイスから人が落下したことを検出するために事前に訓練されたMLモデルで構成されている。開発者は転倒検知モデルを使用し、より多くのデータを収集することで改良ができる。
2013年創業のImagimobは、自動機械学習(AutoML)ソリューションと、オンデバイスTinyMLのためのクイックスタート開発システムを提供している。InfineonによるImagimob買収は、組み込みシステムにAI/MLの利点をもたらすために、組み込みプロセッササプライヤーとTinyMLプラットフォームプロバイダーが協力する必要があることを強調している。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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