超伝導量子コンピュータ国産2号機、企業と連携で用途開拓へ:富士通と理研が共同開発(2/2 ページ)
富士通と理化学研究所は、新しい64量子ビット超伝導量子コンピュータを発表し、実機を公開した。同機はアプリケーション開拓に向けた利用を想定している。
量子コンピュータと従来コンピュータ上のシミュレーターを連携
量子コンピュータの利用にあたっては課題もある。現状の量子コンピュータは小規模で、かつノイズ影響によるエラーを除去しきれないため、大規模な計算を正確に行うことが難しいというものだ。エラーの影響を受けない方法としては、従来コンピュータ上で量子計算をシミュレーションする量子コンピュータシミュレーター(量子シミュレーター)があるが、量子コンピュータの実現により期待される計算の加速は実現できない。
こうした課題を踏まえ、富士通が理研の支援のもと開発したプラットフォームがFujitsu Hybrid Quantum Conputing Platformだ。64量子ビットの超伝導量子コンピュータと40量子ビットの量子シミュレーターを組み合わせて使用するもので、ノイズを含む量子コンピュータの計算結果とノイズを含まない量子シミュレーターの計算結果を容易に比較できる。そのため、エラー緩和アルゴリズムの性能評価などの研究の加速が期待できるという。同プラットフォームは富士通と理研の共同研究の枠組みのもとで、2023年10月5日より企業や研究機関への提供を始めている。
実用的なアプリケーション開拓を目指す
企業との連携の件数については、富士通の富士通研究所フェローで量子研究所長の佐藤信太郎氏が「少なくとも2ケタ」と目標を述べた。量子化学計算での利用や金融業での利用を想定しながらも、「領域を広げるため、例えば流体力学など新しいテーマにも取り組みたい」(佐藤氏)としている。
国産の超伝導量子コンピュータ1号機はマシン性能の高度化などに向けた研究利用を主としているのに対し、今回の2号機は企業による実用的なアプリケーション開拓に向けた利用を想定している。理研の理事を務める吉田稔氏は「役割の異なる2台の国産実機が理研にそろい利用可能になったことは、量子コンピュータのハード開発とソフト開発の相乗的進化のための重要な意味を持つ」と語った。理研は超伝導方式以外の量子コンピュータの研究開発も進めていて、今後新たな実機を公開していくという。
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