理研、シリコン量子ビットの初期化技術を開発:複数回の量子非破壊測定で精度向上
理化学研究所(理研)は、フィードバック操作によるシリコン量子ビットの初期化技術を開発したと発表した。量子非破壊測定を複数回繰り返し行うことで、量子ビットの状態をより正確に見積もることが可能となった。
フィードバック操作で量子ビットを正確に初期化
理化学研究所(理研)量子コンピュータ研究センター半導体量子情報デバイス研究チームの小林嵩研究員や樽茶清悟チームリーダーらによる研究チームは2023年6月、フィードバック操作による「シリコン量子ビットの初期化技術」を開発したと発表した。量子非破壊測定を複数回繰り返し行うことで、量子ビットの状態をより正確に見積もることが可能となった。
量子コンピュータは、「量子もつれ」や「重ね合わせ」といった量子力学の原理を計算に応用した次世代コンピュータ。中でも、シリコン中の電子スピンを用いて量子ビットを作るシリコンスピン量子コンピュータは、既存の半導体集積技術と相性も良く、大規模量子コンピュータの実装に適しているといわれている。
ところが、デバイス中に不純物や不均一性などの不完全性があると、「期待した性能が得られない」など、課題もあった。これを解決するため、「フィードバック操作による初期化処理」などが行われてきた。量子ビットの状態を測定し、その結果に基づいて量子ビットを操作する手法である。ただ、その測定精度が低いと、初期化に失敗することもあったという。
そこで研究チームはまず、初期化したい量子ビットの状態を正確に把握するため、量子非破壊測定を繰り返し行うことで測定精度を向上させた。続いて、測定結果に基づき、任意波形発生器を用いて適切な波形を出力し、量子ビットにおける操作回路中のスイッチ状態を決めた。これにより、量子ビットは測定結果に応じて量子操作され、特定の状態へと、より正確かつ動的に初期化されるという。
これら一連の初期化処理は短い時間で行う必要がある。今回は、FPGAによる高速データ処理とシーケンサーによる任意波形発生器の制御を組み合わせた。これにより、測定から結果に応じた反転操作までに要する時間(treset)を、スピン散乱時間の100分の1(約0.1ミリ秒)に抑え、初期化操作に成功した。
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