「半導体業界で世界のハブになる」東北大総長 大野英男氏:国際卓越研究大学の認定候補に選定(1/3 ページ)
東北大学は2023年9月、「国際卓越研究大学」の認定候補に選定された。今回、東北大学の総長を務め、スピントロニクス半導体研究の第一人者でもある大野英男氏に、21世紀の研究大学のあるべき姿や、半導体業界発展のために必要な取り組みについて聞いた。
多くの半導体関連企業の拠点が集まり、半導体の一大エコシステムが形成されている東北。その東北で、半導体の研究においてひときわ存在感を増しているのが東北大学だ。東北大学の総長を務め、スピントロニクス半導体研究の第一人者でもある大野英男氏は、「半導体業界で世界のハブになる」との思いを抱いている。大野氏に、21世紀の研究大学のあるべき姿や、半導体業界発展のために必要な取り組みについて聞いた。
東北大学は2023年9月、「国際卓越研究大学(2023年度)」の認定候補に選定されていて、正式な認定時期は2024年度中を見込んでいる。正式認定された場合は、10兆円規模の大学ファンドの運営益から、年間で数百億円が最長25年間助成される予定だ。
国際卓越研究大学とは、国際的に卓越した研究の展開および経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が見込まれる大学を認定し、当該大学が作成した「国際卓越研究大学研究等体制強化計画」に対して、大学ファンドによる助成を行う仕組みだ。公募期間は、2022年12月から2023年3月末までで、東京大学や京都大学などを含む10大学(国立8校、私立2校)が応募した。
国際卓越研究大学の認定候補に選定
――東北大学は、国際卓越研究大学への応募に当たり、どのような計画を提出したのでしょうか。
大野英男氏 未来を変革する学術的/社会的価値を創造する「Impact」、多彩な才能を開花させ未来をひらく「Talent」、時代に合わせて変革する柔軟性と国際性を重んじる「Change」の3つをキーワードに、「これからの研究大学はこうありたい」という思いをまとめて提出した。
これからの研究大学は、単に研究をするのではなく、社会や企業と一緒に価値を創造して世界を相手にすることにより、人材育成も含めた真の価値を発揮していくことになるだろう。世界において卓越した価値創造を行うには、海外の企業や学術であれば学生/研究者と国際的な議論や討論ができる人材が必要だ。具体的な目標として、博士課程への進学者を現在の2600人から、25年かけて6000人に増やしたい。最終的には、大学院では講義のほぼ全てを英語で行い、学部でも講義の半数を英語で行う。学部における留学生の割合も、現在の2%から20%に増やしていきたいと考えている。
現代は、「VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の時代」といわれるように変化が激しく、何をターゲットにして何を研究し学べばいいのかは誰にも分からない。だからこそ、個々の優秀な研究者が責任をもって卓越した多様な研究を展開する、この姿が研究大学として理想だと考えている。大学側は、研究者が研究に専念できる研究環境の整備や支援をしなければならない。
半導体は、国家存続のための「一丁目一番地」
――総長は、スピントロニクス半導体研究の第一人者でいらっしゃいますが、今日の半導体業界についてどのように見ておられますか。
大野氏 半導体は、「21世紀の石油」「産業の米」ともいわれるように、どのような活動をするにも必要不可欠な技術だ。5〜6年前までは、「なぜ半導体を研究しているのか、日本で研究成果を受け取る企業はあるのか、買ってくればいいではないか」という声もあった。しかし、地政学的な影響もあって、現在は経済安全保障の観点から国内にもある水準を確保しておかなければならないとの認識が広まった。
世界のサプライチェーンが戦争や疫病など、さまざまな要因に影響されることは、今や共通認識だ。日本は、世界の中で生き抜いていくために何が必要かを考えて、手を打っていく必要がある。半導体は、その「一丁目一番地」(最たるもの)だと考えている。自力で100%供給できる必要はないが、研究や人材育成、スタートアップ支援など、国としても半導体のエコシステムが形成されるようしっかり力を入れていかなければならない。
日本は今まで、(半導体)市場が落ち込んだとき「企業努力で何とかすべき」というスタンスだった。結果、市況が苦しくなった時に、日本の企業は市場から振り落とされた。どんな場合もずっと財政的な支援を続ける必要があるとは思わないが、「石油」であり「米」である以上、市場が低迷したとしても支援を続けるべき時もある。現在、NANDフラッシュメモリやDRAMなどのメモリ市場は苦しい状況だが、国を挙げて半導体の重要性を掲げている今、日本企業が振り落とされることはあってはならない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.