imecも全幅の信頼、Rapidusの「成功の定義」とは何か:湯之上隆のナノフォーカス(68)(4/7 ページ)
imecや経済産業省など、Rapidusの支援を公言する組織/企業は多い。さらに、米TenstorrentやフランスLetiなど、Rapidusとパートナーシップを締結する企業や機関も増えている。それはなぜなのか。2023年11月に開催された「ITF(imec Technology Forum) Japan」で見えてきたその理由と、Rapidusにとっての「成功の定義」をあらためて考えてみたい。
TSMCのケース
Intelに代わって、最先端に躍り出たのがTSMCである。TSMCが最先端の微細化の基盤を築いたのは、2014年である。TSMCはこの年、“Nighthawk Project”を立ち上げ、24時間体制でR&Dを行った。そして、Intelがつまずいた10nmを全力で立ち上げた。その後、TSMCは、2018年に7nm、2019年に世界で初めて最先端露光装置EUVを量産適用した7nm+、2020年に5nm、2021年に4nm(5nmの改良版)、2022年12月に3nmと、最先端の微細化を独走している。
それではTSMCには、どのくらいの社員がいるのだろうか。図3を見ると、EUVを量産適用した2019年以降、社員数が急増している。2019年に5.13万人だったが、2020年に5500人増えて5.68万人になり、2021年には8300人増えて6.52万人になった。そして、2022年に7900人増えて7.3万人に増えた。その結果、何とTSMCは、2018年からの4年間で社員数が2.43万人増えて(毎年平均6000人増)、約1.5倍になったのである。
ある知人は、「TSMCが蟻地獄のように技術者を吸収している」と言った。またもう一人の知人は、「TSMCはまるでブラックホールだ」と言った。台湾だけでなく世界各国から、とびきり優秀な技術者がTSMCに集結しているのである。それでは、TSMCの社員7.3万人(2022年時点)のうち、何人がR&Dに従事しているのだろうか?
TSMCが「グローバルR&Dセンター」を開設
TSMCは2023年7月28日、同社初の研究センターとなる「グローバルR&Dセンター」を、本社近くの台湾新竹県に開設したと発表した(7月28日付日本経済新聞)。この記事によれば、グローバルR&Dセンターは、地上10階、地下7階で、建屋面積は2万平方メートルであり、同年9月までに台湾域内に分散する技術者約7000人以上を同施設に集結させるという。
そして、2023年6月時点でTSMCには約8700人の技術者がいると書かれている。ということは、TSMCの社員数は2022年末時点で7.3万人であり、そのうち技術者が約8700人いる(2023年6月時点)。これは、全社員数の11%に相当する。つまり、TSMCの9人に1人は技術者である。そして、この技術者が24時間体制で、最先端の微細化の技術を死に物狂いで開発している。
【修正:2023年12月27日21時20分 当初、「TSMCの11人に1人は技術者」としていましたが、「9人に1人は技術者」の誤りです。お詫びして訂正致します。】
加えて、TSMCは2nmのR&Dをほぼ完了し、リスク生産のフェーズに入ったという。ただし、量産開始と言えるようになるまで2年程度かかるということも漏れ聞こえてくる。つまり、2nmはとんでもなく難しいのである。
Intel、TSMC、そしてRapidusの比較
2016年まで世界最先端の微細化を推進していたIntelは、その当時約10万人の社員がおり、そのうち恐らく数万人が技術者だったと思われる。また、Intelに代わって最先端に躍り出たTSMCは、2018年以降に毎年社員を平均6000人増大させている。そして、24時間体制でR&Dを行っており、その技術者数は2023年6月時点で約8700人いる。
つまり、半導体で「最先端を行く」ということは、このような規模の社員や技術者が必要だということである(いや、Intelは現在13万人超の社員がいるが、それでも最先端の微細化がうまくいかない状態にある)。
これに対して、Rapidusはどうなのか。小池社長のプレゼンに魅了され、そのパッションに共感し、続々と新入社員が入っている模様である。報道によれば、2023年中に社員は300人弱となり、米IBMに派遣されている技術者も100人になるという(日経XTECH、2023年11月28日)。
昨年2022年11月にRapidusが発表されたときは、約10人の船出だった。それから約1年間で、社員数は約30倍に増えた。これは驚くべき数字かもしれないが、IntelやTSMCと比較すると、桁が二桁足りない。この状況で、「2027年までに2nmを量産」できるとは、筆者には到底考えられない。
そして最後に、Rapidusの成功とは、何をもって成功というのかを論じたい。
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