東京大学ら、反強磁性体で巨大な磁場応答を観測:希釈によりスピン異方性を制御
東京大学を中心とする研究グループは、反強磁性スピンを希釈しスピン異方性を制御し、巨大な磁場応答を得ることに成功した。研究成果は、反強磁性スピントロニクスへの応用が期待される。
反強磁性スピントロニクスへの応用に期待
東京大学を中心とする研究グループは2023年12月、反強磁性スピンを希釈しスピン異方性を制御し、巨大な磁場応答を得ることに成功したと発表した。研究成果は、反強磁性スピントロニクスへの応用が期待される。
研究グループは、2次元系のスピン異方的な反強磁性体で、希釈率がしきい値を超えると、実効的にスピン等方的な強い磁場応答を得られることを理論的に示した。この理論に基づき、強い2次元性を持った超格子「(SrIrO3)1/(SrTiO3)2」をベースとして、イリジウム(Ir)をチタン(Ti)に置き換えて、さまざまなサイト希釈率の薄膜を合成した。
研究グループは、反強磁性秩序パラメータの磁場温度依存性について、共鳴X線磁気散乱を用いて測定した。この結果、サイト希釈率が50%の場合、0.5テスラの磁場を印加すると、反強磁性転移温度を600%も上昇させる巨大な磁場応答が観測された。この磁場はスピン相互作用(50ミリeV)の0.1%というエネルギーに相当する。このケースでは、「スピン等方的モデル」を用いた理論計算とほぼ一致した。これに対しサイト希釈率が0%/15%/35%の場合は、「スピン異方的モデル」で説明できるという。
今回は、東京大学大学院理学系研究科の諏訪秀麿助教を中心に、テネシー大学や中国科学院、アルゴンヌ国立研究所、ブルックヘブン国立研究所、オクラホマ州立大学、カレル大学および、ダブリンシティ大学の研究グループが共同で行った。
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