大阪大ら、ナノポア内のイオン流で冷温器を実現:陽イオンだけが流れるナノポア
大阪大学や東京大学、産業技術総合研究所および、Instituto Italiano Di Technologiaの国際共同研究グループは、「ナノポア」と呼ぶ極めて小さい細孔にナノワット級の電力を加えれば、冷温器になることを実証した。モバイル端末に向けた温調シートモジュールの他、発電素子としての応用が期待される。
薄型温調シートモジュールとして、スマートフォンなどに実装可能
大阪大学や東京大学、産業技術総合研究所および、Instituto Italiano Di Technologiaの国際共同研究グループは2023年12月、「ナノポア」と呼ぶ極めて小さい細孔にナノワット級の電力を加えれば、冷温器になることを実証したと発表した。モバイル端末に向けた温調シートモジュールの他、発電素子としての応用が期待される。
生理食塩水などの電解質液でナノポアを満たし、電圧を印加するとナノポアにイオンの流れが生じる。この原理を応用して、ウイルスやDNAなどを検出するセンサーデバイス、海水や河水を用いた発電デバイスなど、さまざまな研究が全世界で進んでいるという。こうした中で研究グループは、ナノポアにおけるイオンの流れと熱の関係に着目した。
実験を行うために開発したのが、陽イオンだけが流れるナノポアである。半導体技術を用い、さまざまな形状や構造のナノポアを作製し、生理食塩水中でのイオンの流れを調査した。この結果、ナノポアの直径を50nmまで小さくすれば、二酸化珪素の表面にある負電荷の影響によって、陽イオンだけナノポアを流れることが分かった。
作製したナノポアの近くにナノサイズの温度計を設置し、ナノポア近傍の温度変化を調べた。この結果、ナノポア近傍の温度が室温よりも低温になることを発見した。ナノポアの上下を異なる塩濃度の生理食塩水で満たすと、簡単な電圧制御を行うだけで、冷却に加え昇温(加熱)も可能なことを実証した。
今回開発した熱制御技術は、多孔質膜を応用することで厚みが数十ナノメートルの薄膜デバイスで、大きな面積を効率よく加熱/冷却することが可能となり、スマートフォンなどにも容易に実装できるという。
今回の研究成果は、大阪大学産業科学研究所の筒井真楠准教授や川合知二招へい教授、東京大学大学院工学系研究科の大宮司啓文教授、徐偉倫准教授、産業技術総合研究所の横田一道研究員および、Instituto Italiano Di TechnologiaのDenis Garoli研究員ら、国際共同研究グループによるものである。
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