パッケージのサイズからは判別不能 「シリコン面積比率」が示す高密度実装:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(79)(2/3 ページ)
近年、半導体ではパッケージの高密度化が進んでいる。パッケージのサイズからは、搭載されているシリコンの“総面積”は分からない。今回は、2023年に登場した話題のプロセッサを、「パッケージ面積に対するシリコン面積の比率」という観点で見てみよう。
A17 Proのシリコン面積比率
表1は、Apple A17 Pro内部のシリコンの種類と数、そして「パッケージ面積に対するシリコン面積比率」である。これは「総シリコン面積÷パッケージ面積」で求めた。1.00以上の場合は、パッケージ面積よりも内部シリコン面積が大きく、積層化が進んでいることになる。
現在、最も積層化が進んでいるNANDフラッシュメモリでは、50や100という数字になるものもあるが、NANDフラッシュに関しては別途報告したい。Apple A17 Proには16個のシリコンが存在し、総面積はパッケージ面積の2.26倍となっている。これは、全体が2.26層になっていると見ることができる数字である。A17 Proは、ロジック系では最も積層化されているチップの一つとなっている。トータルシリコン16個のうち、2個はダミーシリコン(強度を上げるためと放熱)、9個は電源安定化に寄与するシリコンキャパシター。つまり16シリコン中、11シリコンは特性向上のためのシリコンだ。機能だけをパッケージ内に収めるのではなく、チップ性能を最大化するための特性シリコンにも、多くの面積が割り当てられているわけだ。
「MacBook Pro」に搭載されている「M3 Max」
図2は、2023年11月にAppleから発売された「MacBook Pro」に採用されている「M3 Max」の様子である。弊社では「M3」「M3 Pro」も開封解析しているが、本報告では最上位機能のM3 Maxを取り上げた。M3 Maxはメモリ容量によって32GB版から最大128GBまでバージョンが分かれている。本報告では最上位の128GBの構成を扱う。
M3 Maxは全体が金属LIDで覆われており、LIDを取り外すと図2の上中央のようにメモリチップ4カ所、メモリの間にプロセッサという構成となっている。パッケージの端子面には、29カ所にシリコンキャパシターが埋め込まれる。メモリはパッケージ内部に左右2カ所という構成で、128GBの場合には8層重ね、32GBの場合には2層重ねとなっている。どちらの場合でも、メモリシリコンの直下には補強用のダミーシリコンが埋め込まれている。128GBモデルの場合、メモリの1パッケージに18個のシリコンが収められているわけだ。シリコンキャパシターは、M3 Maxプロセッサのメモリインタフェース、CPU、GPUなどの演算器の真上に配置されている。基本的な構造はiPhone向けと同じだが、機能シリコンと特性シリコンがそれぞれ最も適した場所に実装されているのだ!
表2は、M3 Maxの内部シリコン分布とシリコン総面積÷パッケージ面積で求めたシリコン面積比率である。M3 Maxはパッケージ内に102個ものシリコンが入っている。128GB版では、そのうちおよそ6割の64個のシリコンがLPDDR5メモリだ。29個がシリコンキャパシターである。メモリが個数と面積の大半を占めている。メモリとプロセッサを近接し数量を最大化することで、レイテンシと帯域の両面での性能アップを実現している。近いということは、伝送遅延を最小化でき、電力も削減できるからだ。
特性系シリコンは37個ある。機能はメモリ64個、プロセッサ1個というプロセッサを頂点とするエコシステムがパッケージ内に収まっているわけだ。従来のPCではメモリを増設できるように、メモリカードとプロセッサが別々になっているものが多い。そのため、AppleのMシリーズのような構成のものはほとんど見られない(ただし、Intelのプロセッサに類似の事例がある。「CORE i5-L16G1」(TSVあり、積層メモリあり、当社で解析済み)だ)
M3 Maxのシリコン比率は、A17 Proに比べて若干落ちる数字だが1.59となっている。M3 Maxのような巨大パッケージでも、パッケージ面積の1.6倍に当たる面積のシリコンが収まっているわけだ。Apple製品は、総じてパッケージ面積に対するシリコン面積比率が高い(「シリコン効率が高い」と言えるだろう)
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