理研ら、スピン波と表面音波の強結合を室温で観測:新たなデバイスにつながる可能性も
理化学研究所(理研)と東京大学による共同研究チームは、音響共振器を用い基板表面を伝わる音波(表面音波)を閉じ込めることで、強磁性体中のスピン波と表面音波が強結合した状態を、室温で観測することに成功した。スピン波と表面音波の特性を併せ持つ、新たなデバイスの開発が期待される。
スピン波と表面音波の特性を併せ持つ新たなデバイス開発へ
理化学研究所(理研)と東京大学による共同研究チームは2024年2月、音響共振器を用い基板表面を伝わる音波(表面音波)を閉じ込めることで、強磁性体中のスピン波と表面音波が強結合した状態を、室温で観測することに成功したと発表した。スピン波と表面音波の特性を併せ持つ、新たなデバイスの開発が期待される。
共同研究チームは、スピン波と表面音波の強結合に注目した。スピン波を用いることで磁気情報を伝搬できる。表面音波を用いれば長距離伝搬が可能となる。ところが、スピン波と表面音波の散逸が大きく、これまで強結合は実現されていなかったという。
共同研究チームは今回、圧電基板上に音響共振器を作製し、表面音波を閉じ込めて表面音波の散逸を抑え、スピン波と表面音波の結合を調べた。作製した音響共振器は、対となる2つのくし形電極「IDT1」と「IDT2」を備え、それぞれの外側に反射器を配置した構造である。音響共振器の内部には、二オブ酸リチウムの圧電基板上にコバルト鉄ボロンの薄膜(強磁性膜)を形成した。
表面音波の周波数としては6.58GHz(波長600nm)を用いた。表面音波は音響共振器内に閉じ込められることで散逸が低減される。また、表面音波のエネルギーは強磁性膜内のスピン波のエネルギーと相互作用して変化する。このため、音響共振器を透過した表面音波の振る舞いを観測すれば、スピン波と表面音波の結合の大きさを評価できるという。
実験では、表面音波の進行方向と平行する方向に、0〜100mTの範囲で外部磁場を加え、表面音波の透過率を測定することで表面音波の分散曲線を調べた。磁場を変化させると、スピン波と表面音波の周波数が交差する点が生じる。スピン波と表面音波が強く結合していると、結合強度に比例した反発が生じて、交差できない「擬交差」を示す。
この擬交差を評価することによって、スピン波と表面音波の結合の強度を知ることができるという。音響共振器がないと、分散関係の擬交差は観測できなかった。このことから、強結合を実現するには音響共振器による音波の散逸抑制が、極めて重要であることが分かった。
印加する外部磁場の角度依存性も調べた。この結果、磁場と表面音波の進行方向が平行の時に、結合強度が最も強くなる。しかも、二オブ酸リチウムの圧電基板上における表面音波は、縦波よりも横波の方がスピン波と強く結合することが分かった。
さらに、強磁性体の膜厚を変えれば、結合強度が変化することも分かった。強磁性膜の厚みが30nmだと厚み20nmの場合に比べ、擬交差の反発が強くなった。室温における膜厚と結合強度との相関についても、強磁性膜が厚いほどスピン数は増え、結合強度が強くなることを確認した。特に、強磁性膜の厚みが20nm以上になれば、スピン波と表面音波は強結合に到達しているという。
今回の研究成果は、理研創発物性科学研究センター量子ナノ磁性研究チームのユンヨン・ファン大学院生リサーチ・アソシエイト(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻博士課程)、ホルヘ・プエブラ研究員、近藤浩太上級研究員、東京大学物性研究所の大谷義近教授(理研創発物性科学研究センター量子ナノ磁性研究チームチームリーダー)らによるものである。
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