理研、PtNP/CNM複合体による水素発生触媒を開発:水素発生効率とコスト効率を向上
理化学研究所(理研)は、水中で白金ナノ粒子(PtNP)と炭素ナノマテリアル(CNM)を直接複合化した3種類の「水電解水素発生触媒」を開発した。これらを用いることで、水素の発生効率と同時にコスト効率も高めることができるという。
C6のPt担持量はPt/C触媒の470分の1で、質量活性は270倍
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発生体工学材料研究チームの川本益揮専任研究員、オサマ・メタワ国際プログラムアソシエイト、伊藤嘉浩チームリーダーらによる研究グループは2023年8月、水中で白金ナノ粒子(PtNP)と炭素ナノマテリアル(CNM)を直接複合化した3種類の「水電解水素発生触媒」を開発したと発表した。これらを用いることで、水素の発生効率と同時にコスト効率も高めることができるという。
研究グループは、大きな比表面積を持ち、高い電気伝導度を示すCNMに着目した。今回は、CNMとして「単層カーボンナノチューブ(SWCNT)」「グラフェン」「アセチレンブラック」の3種類を用いた。これらを個別に水分散性PtNPと混合した。その後、超音波処理を行ったところ、「PtNP/SWCNT(C6)」「PtNP/グラフェン(Gr5)」「PtNP/アセチレンブラック(AB20)」の複合体からなる水分散液が得られた。これらの複合体を電子顕微鏡で観察したところ、直径約2nmのPtNPがCNMの表面に直接付着していることを確認した。
3種類の水分散液をインクとして用い、スプレーコートによってプロトン交換膜(PEM)水電解の陰極に成膜を行った。成膜をしたC6、Gr5、AB20に含まれるPt担持量は、それぞれ6μgPt/cm2、5μgPt/cm2、20μgPt/cm2である。さらに、陰極の裏面には酸化イリジウムをスプレーコートすることで陽極を形成し、PEM水電解の電極を作製した。
作製したPEM水電解電極に電圧を印加すると、水素発生に伴う電流が発生した。2.0Vにおける質量活性(白金の単位質量当たりの電流値)は、C6が8万9300A/gPt、Gr5が4万0400A/gPt、AB20が1万7100A/gPtとなった。従来のPt系水素発生触媒に比べ、約100分の1のPt担持量で水素が発生することを確認した。これら触媒のファラデー効率は95%から99%である。特に、C6のPt担持量は市販Pt/C触媒の470分の1でありながら、質量活性は270倍と高い。
発生する気体はH2とO2の比率がほぼ2対1であった。さらに、触媒の安定性を常圧、25℃で確認した。この結果、電流密度100mA/cm2のとき150時間連続して水素が発生することを確認した。なお、C6による水素発生の運転コストは5.3米ドル/kgと試算している。
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