東京大ら、磁気振動の情報を取り出す測定法を開発:長時間隠れて存在できる機構も発見
東京大学と東北大学の研究グループは、磁石の中に隠れていた磁気振動の情報(コヒーレンス)を発見し、その情報を取り出すことに成功した。新たな磁気情報デバイスの開発につながるとみている。
パラメトリック励起により、約5000ナノ秒まで何度も振動
東京大学と東北大学の研究グループは2024年2月、磁石の中に隠されていた磁気振動の情報(コヒーレンス)を発見し、その情報を取り出すことに成功した。新たな磁気情報デバイスの開発につながるとみている。
磁気の振動からさまざまな情報が得られるという。磁気振動には「0」や「1」の情報を対応させることができるため、常温で動作する演算素子などを作製することができる。ただ、コヒーレンスは、外部からの振動磁場がなくなれば短い時間で失われるなど、課題もあった。
研究グループは今回、外部からの振動磁場がなくなった後に、コヒーレンスを取り出す方法を開発した。「ポンプ−プローブ測定」と呼ばれるこの方法では、「パラメトリック励起」という、ブランコの立ちこぎと同じ原理を用いる。ここで重要になるのが、励起を始めた瞬間にブランコが「前に進むか(0位相)」「後ろに進むか(π位相)」だという。仮に、0位相となる確率が高い場合、「ブランコが0位相のコヒーレンスを持っていた」ことになる。
実験では、ポンプ−プローブ測定を繰り返し行い、コヒーレンスがどれだけ長く存在できるかを調べた。共鳴周波数と同じ周波数の力を加えると、約100ナノ秒後にはコヒーレンスが失われ、0位相を読み出す確率が50%になった。
これに対し、パラメトリック励起を行った場合、約5000ナノ秒という長い時間まで、何度も振動することを確認した。磁化の歳差運動は約100ナノ秒で失われるが、コヒーレンスは「隠れて」約5000ナノ秒も存在していたことを示すものだという。
研究グループは、理論モデルを構築し実験結果を検証した。理論モデルではコヒーレンスの情報を、半分の周波数の運動に埋め込み、その情報を再び元の周波数として取り出す機構を考案した。理論計算の結果、長い時間磁気振動の情報を保持できる機構が存在し、その隠されていた情報は取り出せることが分かった。
今回の研究成果は、東京大学大学院工学系研究科の巻内崇彦特任助教、日置友智助教、清水祐樹大学院生、星幸治郎特任研究員、齊藤英治教授(東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)主任研究者、東京大学Beyond AI研究推進機構の教授を兼務)らと、WPI-AIMRのMehrdad Elyasi助教、Gerrit Ernst-Wilhelm Bauer主任研究者らによるものである。
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