Li金属負極採用の全固体電池、−25〜120℃で動作:新たな焼結機構を活用し課題解決
デンソーと九州大学の研究グループは、新しい焼結機構を活用することで、750℃という低温焼結とLi金属への安定性を両立させた「固体電解質」を開発したと発表した。Li金属負極を用いて作製した全固体電池は、−25〜120℃という広い温度範囲で動作することを確認した。
材料間で起こる連続的な相互反応により、低温で焼結が進行
デンソーの林真大氏(研究当時は九州大学大学院総合理工学府博士課程3年)と九州大学大学院総合理工学研究院の渡邉賢准教授、島ノ江憲剛教授らによる研究グループは2024年2月、新しい焼結機構を活用することで、750℃という低温焼結とLi金属への安定性を両立させた「固体電解質」を開発したと発表した。Li金属負極を用いて作製した全固体電池は、−25〜120℃という広い温度範囲で動作することを確認した。
酸化物電解質を用いた電池は、発火などがなく安全性が高い。ところが、材料間を接合するためには1000℃かそれ以上の高温で焼結する必要がある。この時、電極材と電解質材が反応するなどして電池化が難しかったという。
研究グループはこれまで、電解質材の「Li7La3Zr2O12(LLZ)」に低融点焼結助剤をナノレベルで複合化し、750℃での焼結を実現してきた。しかし、焼結助剤を添加するため、負極材料となるLi金属に対する安定性を著しく低下させていた。今回は、新たな焼結機構を活用することで、これらの課題を解決した。
熱分析や微細構造分析を行った結果、「Li-Sb-O酸化物」および「Li-B-O酸化物」という2種の焼結助剤と「CO2」が、連続的に相互反応することが分かった。これによって、(Li)-B-O酸化物は溶融状態を維持し、低温で焼結が進行することを明らかにした。
この焼結機構を活用すれば、Biを含む材料組成を用いなくても低温焼結が可能となる。その上、Sbを含む組成に変更できるため、Li金属に対して安定性の高い固体電解質を開発することに成功した。イオン伝導率は3.1×10-4S/cmを達成した。
開発した材料を用いて作製した全固体電池の特性を評価した。この結果、室温環境で60サイクル充放電後の容量維持率は98.6%となった。しかも、−25〜120℃という温度環境でも電池が動作することを確認した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 有機EL材料の発光効率を高める量子機構を発見
名古屋大学と九州大学の研究チームは、有機EL材料の発光効率を高める新たな量子機構を発見した。開発したシミュレーション法を活用すれば、高性能なTADF(熱活性化遅延蛍光)分子を、効率よく開発できるとみられる。 - グラフェンの層間にアルカリ金属を高密度に挿入
産業技術総合研究所(産総研)と大阪大学、東京工芸大学、九州大学および、台湾国立清華大学の研究グループは、グラフェンの層間にアルカリ金属を高い密度で挿入する技術を開発した。電極材料としてアルカリ金属を2層に挿入したグラフェンを積層して用いれば、アルカリイオン二次電池の大容量化が可能になるという。 - オンアクシススパッタリング法でTmIG薄膜を作製
九州大学とリーズ大学による国際共同研究グループは、大面積の成膜に適したオンアクシススパッタリング法を用い、ツリウム鉄ガーネット(TmIG)の垂直磁化膜を作製することに成功した。高速磁壁移動デバイスやスキルミオンデバイスなどの製造に適用していく。 - メタサーフェスで、無線電力伝送システムの伝送効率を大幅に向上
九州大学は、無線電力伝送(WPT)システムにおいて、送信機と受信機間の磁場を制御するための「メタサーフェス」を新たに開発した。これを応用することでWPT利用時の伝送距離や位置ずれといった課題を解決し、これまでにはないワイヤレス充電環境を実現できるという。 - 酸化物全固体電池向け電解質材料を低温で焼結
九州大学と物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは、酸化物全固体電池に向けて、750℃という低温で焼結可能な電解質材料を開発した。開発した材料は室温でのイオン伝導率が高く、この材料を用いた全固体電池は、室温環境で80サイクルの充放電が可能だという。 - 九大、400kW級全超電導モーターの回転試験に成功
九州大学先進電気推進飛行体研究センターは、電動航空機に向けた400kW級全超電導モーターを開発、回転試験に成功した。将来の「空飛ぶクルマ」に適用することも視野に入れている。