ペロブスカイト関連層状酸化物が強誘電性を発現:重要となるAサイトの原子配列
京都大学は、九州大学や大強度陽子加速器施設(J-PARC)、北海道大学の協力を得て、ペロブスカイト関連層状酸化物「La2SrSc2O7」が強誘電体になることを実証した。しかも、強誘電性の発現には、Aサイトの無秩序な原子配列が重要な役割を果たしていることを突き止めた。
強誘電体は、TC=600K以上で常誘電体に構造相転移
京都大学の研究グループは2024年2月、九州大学や大強度陽子加速器施設(J-PARC)、北海道大学の協力を得て、ペロブスカイト関連層状酸化物「La2SrSc2O7」が強誘電体になることを実証したと発表した。しかも、強誘電性の発現には、Aサイトの無秩序な原子配列が重要な役割を果たしていることを突き止めた。
研究グループは今回、Aサイトに二種類の陽イオンを含む「n=2 Ruddlesden−Popper型Ln2AB2O7」を用いて物質探索を行い、新たな強誘電体である「La2SrSc2O7」を発見した。この結晶構造は、ペロブスカイト層(層数2)と岩塩層(層数1)が積み重なった層状構造を持つという。
実験ではLa2SrSc2O7について、大型放射光施設「SPring-8」での放射光X線回折や、大強度陽子加速器施設「J-PARC」での高分解能粉末中性子回折を用いた構造解析および、光第二高調波発生と電場−分極履歴測定による物性評価、さらには第一原理計算による理論的考察などを行った。
この結果、室温における結晶性は「極性構造」が妥当であることが分かった。また、緻密な多結晶試料に対する電場−分極履歴測定により、分極反転が起こることを確認した。強誘電体がTC=600K(327℃)以上で常誘電体に構造相転移することも明らかにした。強誘電相は、ScO6八面体の回転および傾斜によって特長付けられるが、TC以上になるとScO6八面体回転が消失して、強誘電性も失われるという。
さらに、第一原理計算による理論的研究から、AサイトのSr/Laの秩序・無秩序分布は強誘電構造の安定化に重要な役割を果たしていると予想した。具体的に、イオン半径が大きいSr2+がペロブスカイ層を優先的に占有する場合には、La3+が岩塩層にのみ存在する。このように、SrScO3ペロブスカイト層とLaO岩塩層からなるAサイト秩序相では、酸素八面体回転が抑制され常誘電体が安定化する。
これに対し、Sr/Laが完全に無秩序に分布する場合は、ペロブスカイト層と岩塩層のSr/La分布はともに1対2となる。(La0.67Sr0.33)ScO3ペロブスカイト層と(La0.67Sr0.33)O岩塩層からなるAサイト無秩序相では、酸素八面体回転が生じて強誘電体が安定化する。さまざまなSr/La配列に対する計算を行い、その結果からAサイトの無秩序な原子配列が強誘電相の出現をもたらしていると判断した。
Ruddlesden-Popper型La2SrSc2O7のペロブスカイト層におけるSr2+の占有率に対する強誘電体(酸素八面体回転あり)と常誘電体(酸素八面体回転なし)間におけるエネルギー差の変化[クリックで拡大] 出所:京都大学
今回の研究成果は、京都大学材料化学専攻の川崎龍志氏(研究当時は修士課程学生)やYang Zhang 修士課程学生、Wei Yi准教授、藤田晃司教授の研究グループと九州大学、大強度陽子加速器施設(J-PARC)、北海道大学の研究者らによるものである。
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