天野浩氏が語ったGaNパワーデバイスの展望 「エネルギー効率99%以上を目指す」:脱炭素社会の実現に向け(1/2 ページ)
Si(シリコン)に代わる新しい材料として、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などのWBG(ワイドバンドギャップ)半導体が注目を集めている。名古屋大学教授でノーベル物理学賞受賞者である天野浩氏の講演から、GaN基板/デバイスの研究開発の現状と将来展望を紹介する。
パワーエレクトロニクスの領域では、Si(シリコン)に代わる新しい材料として、より省エネルギー性に優れたSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などのWBG(ワイドバンドギャップ)半導体が注目を集めている。富士経済の調査によると、2035年にはパワー半導体市場に占めるこれら次世代半導体の比率は45%にまで高まるという。
2023年10月、在日ドイツ商工会議所が主催し、Infineon Technologiesの日本法人であるインフィニオン テクノロジーズ ジャパンが企画事務局として参画したイベント「日独オクトーバー技術交流会(オクトーバーテック2023)」に、名古屋大学未来材料・システム研究所の未来エレクトロニクス集積研究センター長で教授の天野浩氏が登壇し、「脱炭素社会実現に貢献するWBGエレクトロニクスの構築を目指して」と題した講演を行った。本稿では天野氏の講演を基に、GaN基板やデバイスの研究開発の現状/将来展望や関連する同氏の取り組みについて紹介する。
名古屋大学 未来材料・システム研究所 未来エレクトロニクス集積研究センター長で教授の天野浩氏(左)とInfineon Technologies CMO(最高マーケティング責任者)のAndreas Urschitz氏(右)[クリックで拡大] 出所:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
GaNデバイスの現状 車載向けには課題も
現在、GaNが既に多く利用されているのはLED照明の領域だ。日本の照明器具市場におけるLED照明の割合は2020年度時点で97.1%と圧倒的だった。天野氏は学生時代からGaNの研究に取り組み、2014年には青色LEDの発明によってノーベル物理学賞を受賞した。天野氏は当時について「非常によく仕事をしたと思う」と語りながらも、研究開発から商品として市場に出るまでのサプライチェーンが長いことから「当時の大学でできたことは結晶成長の研究など、ほんの一部だったという反省があった」と振り返る。
昨今はパワーデバイス領域でGaNへの注目度が高まってきていることを踏まえ、天野氏は「人類への次の貢献として、EV(電気自動車)を皮切りに省エネルギーシステムの実現にGaNを役立てたい」「目指すのは『エネルギー効率99%以上』の変換技術だ」と語った。
天野氏は、パワーデバイスの研究開発ではLEDの研究開発以上に幅広く貢献したいと考え、名古屋大学内の施設「C-TECs(エネルギー変換エレクトロニクス研究館)」「C-TEFs(エネルギー変換エレクトロニクス実験施設)」立ち上げに参画したという。同氏は、結晶の研究開発からデバイスやモジュールの開発、システムへの組み込みまでを「同じ屋根の下で一気に行える仕組み」(天野氏)で、GaNデバイスの早期社会実装を目指している。
GaNパワーデバイスの最大の特徴は、高効率化/小型軽量化が可能になることだ。天野氏らが行った実証試験では、GaNパワーデバイスを用いてインバーターのエネルギー損失をSi比で65%削減することと、デバイスの小型化に成功したという。
ただし、大きな需要が見込まれる車載用途に向けては、現状のGaNパワーデバイスでは課題もある。まず、ワンチップで実際に扱える電力が少ないことだ。また、ノーマリーオフ型のデバイスにする必要があるが、そのためにp-GaNゲート構造を用いると長期の安定性に問題が生じ、カスコード接続を用いるとEモードのSi MOSFETを組み込む必要が出て、実装面積が大きくなってしまう。さらには短絡耐性や大きな逆電圧に対するアバランシェ耐圧など、トラブル耐性への課題もあるという。
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