天野浩氏が語ったGaNパワーデバイスの展望 「エネルギー効率99%以上を目指す」:脱炭素社会の実現に向け(2/2 ページ)
Si(シリコン)に代わる新しい材料として、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などのWBG(ワイドバンドギャップ)半導体が注目を集めている。名古屋大学教授でノーベル物理学賞受賞者である天野浩氏の講演から、GaN基板/デバイスの研究開発の現状と将来展望を紹介する。
GaN基板製造技術の現在地
日本国内のGaN基板製造技術は、現在第1世代〜第3世代まで進展している。第1世代はサファイア/Si/SiC上のGaNで、欠陥密度は109/cm2だった。第2世代はJVPE-GaN上のGaNで、欠陥密度は106/cm2だった。第3世代は低転位GaN基板上のGaNで、欠陥密度は104/cm2にまで減少した。
第3世代の基板成長技術は主に、「ナトリウムフラックス法」と「アモノサーマル法」の2種類だ。ナトリウムフラックス法は米コーネル大学と東北大学が開発した方法で、現在は大阪大学と豊田合成が社会実装に向けた研究開発を行っている。6インチ基板まで作成に成功していて、現在は8インチ基板の作成が進んでいる。
アモノサーマル法については、初めにポーランド企業Ammonoが塩基性アモノサーマル法を開発し、現在は東北大で開発された酸性アモノサーマル法で三菱ケミカル/日本製鋼所/名古屋大が社会実装を目指している。現在4インチ基板まで市販化されていて、6インチ基板の作成を目指した研究開発が進んでいる。
Siと比較してGaNの課題となるのは、転位と呼ばれる欠陥があり、逆方向電圧時に漏れ電流が発生することだ。天野氏によれば、転位には、らせん転位/刃状転位/混合転位という種類があり、このうち、らせん転位の一部が漏れ電流を生じさせることが分かったという。ただし、転位部分の漏れ電流は1cm2当たり1μA以下だということも判明していて、天野氏は「GaNは信頼できる材料であるといえる」とした。
デバイス開発に向けては低コストの製造法も確立
GaN基板が安定して入手できるようになってきたことから、デバイスの研究開発も進展している。IMPATT(impact avalanche and transit time)ダイオードでは20GHzの高周波発振が実現し、将来的にはBeyond 5G(第5世代移動通信)/6G(第6世代移動通信)といった無線通信にも活用が見込まれるという。また、GaNデバイスは製造コストの高さも課題として挙げられるが、基板の切り出しを短時間かつ少ないロスで行うレーザースライス技術が確立され、「コストは10分の1にまで下げることができると実証した」(天野氏)という。
脱炭素化への貢献 目標は「2030年に省エネ効果15%」
GaNの基礎/応用研究の加速と効率化を目的に設立されたGaNコンソーシアムでは、GaNデバイスの省エネルギー効果の目標値を設定して研究開発にあたっている。2030年には、GaNデバイスによって2020年比で15%以上の省エネルギー効果の実現を目指す。
天野氏は「GaNデバイスの研究開発には世界との協働が必要だ。材料からデバイスまで、共同で研究開発を行っていきたい」と講演を締めくくった。
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