磁気記録媒体を3次元化、HDDの容量拡大が可能に:多値記録で10Tビット/in2を超える
物質・材料研究機構(NIMS)と米国Seagate Technology、東北大学の研究グループは、磁気記録媒体を3次元化すれば、ハードディスクドライブ(HDD)で多値記録ができることを実証した。10Tビット/in2を超える高密度磁気記録が可能となる。
レーザー出力を調整して、上下のFePt層へ書き込み
物質・材料研究機構(NIMS)と米国Seagate Technology、東北大学の研究グループは2024年3月、磁気記録媒体を3次元化すれば、ハードディスクドライブ(HDD)で多値記録ができることを実証した。10Tビット/in2を超える高密度磁気記録が可能となる。
HDDでは現在、垂直磁気記録方式が用いられている。こうした中でSeagate Technologyは、従来の1.5Tビット/in2という記録密度を飛躍的に高めるため、磁気異方性の高い鉄白金(FePt)を用いた熱アシスト磁気記録方式(HAMR)を実用化してきた。ところが、FePt粒子のサイズが4nm以下になると、熱によって粒子が揺らぎ始める。このため、現行のHAMR方式で10Tビット/in2以上の記録密度にすることは極めて難しかったという。
そこで研究グループは、記録層を立体的に積層する3次元磁気記録方式を考案した。作製した3次元FePt媒体は、平均粒子サイズが約12nmの均一なFePtを記録媒体の材料として用いた。そして、上下のFePt層を磁気的に独立させるため、その間にルテニウム(Ru)粒子を用い、スペーサー層を設けた。
試作したFePt媒体の磁化曲線と熱磁気曲線を調べたところ、上下FePt層のそれぞれに対応する2つの磁化反転とキュリー点が存在することを確認した。これにより、レーザーの出力を調整すれば、上下のFePt層に書き込みが可能であることが分かった。FePt/Ru/FePtの媒体モデルを用いたシミュレーションでも、上下FePt層へ書き込みができることを確認した。
研究グループは今後、FePt粒子のダウンサイジングや、上部FePt層の配向および磁気異方性の改善、FePt層のさらなる多層化などに取り組んでいく。
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