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熱サイクルに強い超伝導素子の開発につながる成果を発表 東京都立大学など熱膨張係数の圧力依存性を評価

東京都立大学らの研究チームは、遷移金属ジルコナイド超伝導体「CoZr2」に圧力をかけると、体積熱膨張率が「負」になることを見いだした。「正」の熱膨張材料と組み合わせれば、「ゼロ熱膨張」の超伝導材料を開発することが可能となる。

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熱サイクルに極めて強い超伝導素子の作製が可能に

 東京都立大学と高輝度光科学研究センター、島根大学、物質・材料研究機構(NIMS)および、日本大学の研究チームは2024年3月、遷移金属ジルコナイド超伝導体「CoZr2」に圧力をかけると、体積熱膨張率が「負」になることを見いだした。「正」の熱膨張材料と組み合わせれば、「ゼロ熱膨張」の超伝導材料を開発することが可能となる。

 多くの物質は冷却すると縮み、加熱すると膨張する「正の熱膨張(PTE)」を示す。これに対し、まれではあるが冷却すると膨張する物質もあり、「負の熱膨張(NTE)」と呼ばれている。インバー合金のように、温度変化によって熱膨張しない「ゼロ熱膨張」材料もある。これとは別に、負の熱膨張材料と正の熱膨張材料を組み合わせた複合材料でも、ゼロ熱膨張を実現できる可能性があるという。ただ、超伝導を示す異常熱膨張材料については未開拓の領域であった。

 東京都立大学の研究グループは、CoZr2超伝導体が結晶のc軸方向に一軸的な負の熱膨張を示すことを2022年に見出した。2023年にはCoサイトをNiで部分置換することで、c軸の線熱膨張係数を負から正に切り替えることにも成功した。ただ、体積熱膨張係数βは「正」のままだったという。

 今回の研究により、NiZr2はa軸、c軸ともに「正の熱膨張」を示すのに対し、CoZr2はc軸方向に「負の熱膨張」、a軸に関しては「正の熱膨張」を示すことが分かった。また、ダイヤモンドアンビルセルを用いて、CoZr2に対し高圧を印加しながら、さまざまな温度条件で放射光X線回折を行い、熱膨張係数の圧力依存性を評価した。

左と中央はNiZr2とCoZr2の常圧下線熱膨張係数の比較。右は高圧下でのCoZr2の線熱膨張係数
左と中央はNiZr2とCoZr2の常圧下線熱膨張係数の比較。右は高圧下でのCoZr2の線熱膨張係数[クリックで拡大]出所:東京都立大学他

 測定結果から、a軸方向の線熱膨張係数は、2.9GPaの加圧によって常圧時の半分以下に減少。さらに加圧していくと線熱膨張係数が減少することが分かった。c軸方向に対しては、線熱膨張係数が大きな負の値を維持したことで、体積熱膨張係数は負の値に転じた。

 今回の測定は室温以上の温度環境で行った。このため、低温で熱膨張係数がどのようになるかは未解明としながらも、CoZr2などの遷移金属ジルコナイドでは、低温から高温まで同様の熱膨張特性を示すことを常圧下で確認しており、今回観測した負の体積熱膨張は低温でも維持されるとみている。

上図は圧力P=2.9GPaでのCoZr2の格子定数の温度依存性。下図は線熱膨張係数(左、中央)および体積熱膨張係数(右)の圧力依存性
上図は圧力P=2.9GPaでのCoZr2の格子定数の温度依存性。下図は線熱膨張係数(左、中央)および体積熱膨張係数(右)の圧力依存性[クリックで拡大] 出所:東京都立大学他

 研究グループは今後、加圧によるa軸線熱膨張係数の抑制機構を解明できれば、常圧下でも負の体積熱膨張やゼロ熱膨張を示す超伝導体を開発できるとみている。これによって、熱サイクルに極めて強い超伝導素子を作製することが可能となる。

 今回の研究成果は、東京都立大学大学院理学研究科物理学専攻の水口佳一准教授と渡邊雄翔大学院生、高輝度光科学研究センター回折・散乱推進室の河口沙織主幹研究員、島根大学総合理工学部の臼井秀知助教、物質・材料研究機構(NIMS)の松本凌研究員および、日本大学文理学部物理学科の高橋博樹教授らによるものである。

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