熱電材料と磁性材料を積層するだけ 「横型熱電効果」が最大15.2μV/Kに:新たな熱電デバイスに応用
物質・材料研究機構(NIMS)は、熱電材料と磁性材料を積層しただけの単純な構造で、「横型熱電効果」を飛躍的に向上させることに成功した。開発した積層構造は新たな環境発電技術や熱流センサーといった熱電デバイスへの応用が期待される。
絶縁体を介さず、磁性材料と熱電材料を積層して直接接触
物質・材料研究機構(NIMS)は2024年3月、熱電材料と磁性材料を積層しただけの単純な構造で、「横型熱電効果」を飛躍的に向上させることに成功したと発表した。開発した積層構造は、新たな環境発電技術や熱流センサーといった熱電デバイスへの応用が期待される。
廃熱などから電気エネルギーを得る熱電変換には、「縦型」熱電効果であるゼーベック効果を利用した熱電材料などが用いられている。ただ、素子構造が複雑となりそれに伴う耐久性やコスト高が課題となっている。一方、「横型」熱電効果である異常ネルンスト効果を利用した素子は、シンプルな構造ではあるが変換効率が低い、という課題があった。
こうした中で研究チームは、「ゼーベック駆動横型磁気熱電効果(STTG)」と呼ばれる新たな原理を2021年に考案、最大で82μV/Kという横熱電能を達成した。STTGは磁性材料と熱電材料の間に電気的な絶縁体を挟み、両端部のみを電気的に接合した閉回路構造である。これによって、熱電材料のゼーベック効果を駆動力としたキャリアが、磁性材料の中で異常ホール効果により横熱電能に変換する。ただ、構造が複雑で実用には向かなかったという。
研究チームは今回、絶縁体を介さずに磁性材料と熱電材料を積層し直接接触させるシンプルな構造とした。これによって現れるSTTGによって、異常ネルンスト効果をはるかに超える横型の熱電能が得られることを実証した。
横熱電能を増幅するため、理論モデルを用いたシミュレーションにより、最適な熱電材料と磁性材料の膜厚比率を求めた。この結果を基に、ゼーベック係数が大きい厚み20μmの「n型シリコン」を熱電材料とし、その上に大きな異常ホール効果を示す磁性材料「鉄ガリウム(Fe-Ga)合金」薄膜を膜厚20〜500nmで制御し積層した。
作製した試料の横熱電能を評価したところ、最大15.2μV/Kの出力が得られることを確認した。この値は、Fe-Ga合金薄膜単体の異常ネルンスト効果の横熱電能(2.4μV/K)に比べ6倍である。また、室温で最大の異常ネルンスト効果を示すといわれるワイル半金属「Co2MnGa」(8μV/K)に比べても約2倍の値となった。
左上図は磁性−熱電の二層構造における横熱電能を評価した試料の断面模式図。左下図は最大15.2μV/Kの横熱電能を観測した試料(tM=70nm)の断面と元素マッピング。右図は二層構造における各層の膜厚比に対する横熱電能の依存性[クリックで拡大] 出所:NIMS
今回の研究成果は、NIMS若手国際研究センターの周偉男ICYSリサーチフェロー、磁性・スピントロニクス材料研究センター磁気機能デバイスグループの桜庭裕弥グループリーダー、スピンエネルギーグループの内田健一上席グループリーダー、ナノ組織解析グループの佐々木泰祐グループリーダーらによるものである。
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