東北大ら、「近未来版」の確率論的コンピュータを開発:半導体回路+スピントロニクス素子で(2/2 ページ)
東北大学と米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校らの研究チームは、確率的なアルゴリズムを効率よく実行でき、製造も比較的容易な「近未来版の確率論的コンピュータ」を開発、その動作を検証した。「最終形態の確率論的コンピュータ」では、現行の半導体コンピュータに比べ、面積を約4桁、エネルギー消費を3桁、それぞれ削減できることを確認した。
プロトタイプを作製して評価
研究チームは、半導体・スピン融合確率論的コンピュータのプロトタイプを作製し、確率的サンプリングによる推定と深層ボルツマン機械学習の性能評価を行った。このシステムは、確率動作スピン素子からなる5つのスピントロニクス確率ビット(Pビット)が生成する物理乱数で、FPGA内にある大量の疑似乱数生成器を駆動して演算が行われるよう設計されている。
実験では、線形帰還シフトレジスタ(LFSR)および、LFSRが出力するビット列に数学的な処理を施し、そのランダム性を高めた疑似乱数生成器(Xoshiro)と、LFSRを確率動作スピン素子で駆動した場合(MTJ+LFSR)の効果を比較した。
この結果、確率動作スピン素子でLFSRを駆動した場合でも、高級なXoshiroと同じように、計算を重ねることで解の精度や学習の効果が高まることを確認。高い計算性能を少ないリソースで実現できることが分かった。
さらに、プロセス設計キットを用い、LFSRとXoshiro、スピン素子からなるPビットを形成するために必要なトランジスタ数と、1つの乱数を生成するのに必要なエネルギーを比べた。そうしたところ、最終形態のスピントロニクスPビットはXoshiro Pビットに比べて、トランジスタ数は0.0003倍、消費エネルギーは0.007倍で済むことが分かった。
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