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空間分解能が約100nmの中赤外顕微鏡を開発:材料工学への応用も期待
東京大学は、中赤外フォトサーマル顕微鏡に新たな技術を導入し、約100nmという空間分解能を実現した。開発した顕微鏡を用い、細菌内部のたんぱく質や脂質といった生体分子の分布を観察することに成功した。
高開口数の対物レンズとパルス幅が短い中赤外パルス光源を開発
東京大学大学院理学系研究科の井手口拓郎准教授らは2024年4月、中赤外フォトサーマル顕微鏡に新たな技術を導入し、約100nmという空間分解能を実現したと発表した。開発した顕微鏡を用い、細菌内部のたんぱく質や脂質といった生体分子の分布を観察することに成功した。微細構造を持つ物質の分子振動イメージングを非破壊、非接触で行えるようになるので、生物学や医学のみならず、材料工学など幅広い分野での利用が期待できるという。
中赤外顕微鏡は、非破壊で非標識、非接触で物質の分子組成の空間分布を観察できる特殊な顕微鏡である。ただ、波長が長い中赤外光を用いるため、空間分解能は数千ナノメートル程度にとどまっていた。空間分解能の課題を解決するため、中赤外フォトサーマル顕微鏡も開発された。しかし、用いる対物レンズの開口数が低いことや、パルス幅の長い中赤外光によって生じる熱拡散の影響で、空間分解能が制限されていたという。
そこで今回、高い開口数を持つ単一の対物レンズを用いて、高空間分解イメージングを実現した。また、ナノ秒以下のパルス幅を持つ中赤外パルス光源を開発した。これらの技術を適用することで、120nmという空間分解能を実現した。さらに可視光の波長と対物レンズの開口数を最適化すれば、100nm以下の分解能を達成することも可能とみている。
左は単一の対物レンズを用いた中赤外フォトサーマル顕微鏡。中央は開口合成法の概略。右はパルス幅がナノ秒以下の中赤外光パルスおよび可視光パルスを用い、中赤外フォトサーマル効果で生じた熱が拡散する前に計測[クリックで拡大] 出所:東京大学
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