パワー半導体のスイッチング損失を半減、「自動波形変化ゲート駆動ICチップ」:東京大学が開発
東京大学は、パワー半導体のゲート端子を駆動する電流波形を自動で制御するための機能を1チップに集積した「自動波形変化ゲート駆動ICチップ」を開発した。このICチップを用いると、パワー半導体のスイッチング損失を49%低減できることを確認した。
駆動回路、センサー回路、制御回路を1チップに集積
東京大学生産技術研究所の高宮真教授と畑勝裕助教、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻修士課程の張狄波大学院生らによる研究グループは2024年3月、パワー半導体のゲート端子を駆動する電流波形を自動で制御するための機能を1チップに集積した「自動波形変化ゲート駆動ICチップ」を開発したと発表した。このICチップを用いると、パワー半導体のスイッチング損失を49%低減できることを確認した。
パワー半導体は、ゲート駆動回路によりゲート端子の電圧を制御することで、オン/オフの切り替えを行う。この時、一般的なゲート駆動回路だと、スイッチング時に生じるエネルギー損失とノイズの両方を同時に低減することはできなかったという。
これを解決する方法として、ゲート端子を駆動する電流波形を制御するゲート駆動回路が提案されている。既に、「出力電流を可変としたゲート駆動回路」「適切なタイミングを決定するためのセンサー回路」「電流波形を変化させるための制御回路」を組み合わせた「自動波形変化ゲート駆動回路」などが開発されてきた。ところが、外形寸法が約14×7cmと大きく、コストも高いという課題があった。
研究グループは今回、「駆動回路」「センサー回路」「制御回路」の3つを1つのICチップに集積した。これにより、「スペース」と「コスト」の問題を解決したという。今回の実験では、シリコンのパワー半導体に開発したICチップを適用したところ、600V、80Aの条件でスイッチング損失を49%低減できることを確認した。開発した技術はシリコンだけでなく、SiC(炭化ケイ素)などさまざまなパワー半導体に適用することができる。
東京大学によれば、ドイツの自動車関連企業からは、「ゲート駆動回路に波形変化技術を導入することで、スイッチング損失が56%低減し、電気自動車の電動システム全体の損失が7.6%低減する」とのシミュレーション結果が報告されているという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 光と電子の性質を併せ持つ「ハイブリッドな」量子状態を実現
東京大学は、光と電子の性質を併せ持つハイブリッドな量子結合状態を生成することに成功した。テラヘルツ電磁波と電子の両方を半導体ナノ構造中に閉じ込め、強く相互作用させることで実現した。大規模固体量子コンピュータへの応用を視野に入れている。 - 東京大ら、磁気振動の情報を取り出す測定法を開発
東京大学と東北大学の研究グループは、磁石の中に隠れていた磁気振動の情報(コヒーレンス)を発見し、その情報を取り出すことに成功した。新たな磁気情報デバイスの開発につながるとみている。 - 理研ら、スピン波と表面音波の強結合を室温で観測
理化学研究所(理研)と東京大学による共同研究チームは、音響共振器を用い基板表面を伝わる音波(表面音波)を閉じ込めることで、強磁性体中のスピン波と表面音波が強結合した状態を、室温で観測することに成功した。スピン波と表面音波の特性を併せ持つ、新たなデバイスの開発が期待される。 - 極性単結晶薄膜を塗布形成できる有機半導体を開発
東京大学は、非対称の棒状分子が全て同じ方向に並んだ極性単結晶薄膜を塗布形成できる有機半導体「pTol-BTBT-Cn」を開発した。 - 光の進む方向で光ダイオード効果が2倍以上も変化
大阪公立大学と東京大学の研究グループは、LiNiPO4(リン酸ニッケルリチウム)単結晶を用いた実験で、光の進行方向を反転させることによって、光通信波長帯域における光ダイオード効果が2倍以上も変化することを発見した。外部から磁力を加えると、透過方向を切り替えることもできる。 - サブナノ厚の2D半導体のみを単離する手法を開発
東京大学は、溶媒内で超音波処理を行い、わずか1分という短い時間でサブナノ厚の2次元(2D)半導体単層を選択的に単離することに成功した。単離した単層を用い、多数の電極を有する単層デバイスの作製も可能である。