「汎用マイコンでこそエッジAIを」 急加速する市場のけん引役を狙うST:ローエンド品でも、機械学習の知見がなくても(1/3 ページ)
AI(人工知能)関連技術の進展が目覚ましい昨今、クラウドではなくエッジデバイス上でAI推論を行うエッジAIの導入が進む。中でも、マイコンを用いた低消費電力のエッジAIへの注目が高まっている。開発者が抱える課題や求められるソリューションについて、STマイクロエレクトロニクスに聞いた。
AI(人工知能)関連技術の進展が目覚ましい昨今、クラウドではなくエッジデバイス上でAI推論を行うエッジAIの導入が進み始めている。中でも、組み込み機器で、マイコンを用いて低消費電力でAIを実行する「組み込みAI」(エッジAI)への注目が高まっている。データ通信の遅延や消費電力、セキュリティなどの点で多くのメリットがあるからだ。
その「マイコンを用いる組み込みAI」に注力しているのがSTマイクロエレクトロニクス(以下、ST)だ。STは、巨大なエコシステムを持つ同社の汎用32ビットArmマイコンをベースとした組み込みAIソリューションの展開に力を入れる。
マイコンを用いたエッジAIの導入にあたり、開発者はどのような課題を抱えていて、どのようなソリューションを求めているのか。STのマイクロコントローラ&デジタル製品グループ マイクロコントローラ製品マーケティング部でマネージャーを務める木村崇志氏に話を聞いた。
エッジAI導入は22〜23年に急加速 「潮目が変わった」
エレクトロニクス業界でエッジAIが具体的に導入され始めたのは2018年ごろだ。STも、2017年の「CES 2017」で内製AI搭載ハードウェアの最初の試作品を展示し、2019年に最初のソフトウェアツールとして、同社の32ビットArmマイコン製品群「STM32」向けにAIプログラムをC言語に変換する開発環境「STM32Cube.AI」をリリースしている。
木村氏は当時について「エッジAIが雑誌でも取り上げられるなど、この頃に1度ブームになったが、具体的な案件には進展しないことがほとんどだった」と語る。その後、ブームは落ち着いたかにみえたが、潮目が変わったのは2022〜2023年だ。「マイコンを使ったエッジAIで何ができるか、ユーザー側が考え続けたことで具体的なアイデアが生まれてきた。開発ツールなどの技術革新もあり、実際にマイコンで組み込みAIを行う製品が出てきた」(木村氏)という。STでも2024年4月、パナソニック サイクルテックの電動アシスト自転車に同社のエッジAIソリューションが採用されたことを公表している。
エッジAI市場の成長はデータにも表れている。Research and Marketsによると、エッジコンピューティング市場は2030年までに1560億米ドル規模に成長する見込みで、Future Market Insightsの調査によると、エッジAIの市場規模は2022年の250億米ドルから2032年には860億米ドルまで成長すると予測される。
STのグローバルの顧客を対象とした調査では、製品にエッジAIを導入している顧客は2020年時点では全体の5%だったが、2023年には全体の40%にまで急増。さらに、エッジAI未導入顧客のうち80%が2024年内にエッジAIのプロジェクト開始を計画しているという。
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