24〜25年半導体市況を見通す ―― WSTS春季予測はもっと強気でもよいのでは:大山聡の業界スコープ(77)(3/3 ページ)
WSTS(世界半導体市場統計)が2024年および2025年の世界半導体市場予測を発表した。2024年の成長率は前年比16.0%と予測されているが、条件次第ではもっと強気な予想も可能ではないか。今回は、これまでの状況を踏まえながら今後の市況見通しについて考える。
メモリ市場は回復基調
メモリ市場は同76.8%増という予測だ。2024年1月から4月までの実績を見ると同85.4%増、極めて好調に推移しているように見える。ただしこの成長率は、前年(2023年)の同時期がメモリのボトム期にあたっていることで、その反動によるところが大きい。回復基調にあることは間違いないが、前回および前々回のピーク時に比べると、まだ十分なレベルに回復しているとはいえず、今後の動向に注目したいところである。WSTSの予測は順当と言えるだろう。
DRAMもNAND型フラッシュメモリも、平均単価が緩やかに上昇しながら推移しており、需給バランスが安定していることを伺わせるが、DRAMとNANDフラッシュの状況には若干の違いがあるようだ。DRAMはAIプロセッサが必要とするHBM(High Bandwidth Memory:高速DRAM)の需要が伸びており、これを量産するために設備投資を加速させる動きが見られる。NANDフラッシュの方は各メーカーが生産調整しながら需給バランスをコントロールしており、設備投資を強化する動きには至っていない。つまり、今後はDRAM市場には伸びしろがありそうだが、NANDフラッシュ市場には同様の期待ができないのではないか、という点が異なるのである。NANDフラッシュの専業メーカーであるキオクシアは、何とか2024年中に上場を果たしたい、という声も聞こえてくるが、今後のNANDフラッシュ市場にどこまで期待が持てるのかが気になる。当面は、キオクシアの動きからも目が離せないだろう。
2025年のメモリ市場は同25.2%増と予測されているが、これには違和感がある。これまでのメモリ市場は2017年、2021年にピークを迎えており、このパターンを繰り返すのであれば、次のピークは2025年に期待できることになる。つまり、もっと高い成長率が期待できるのではないか、と筆者は考えている。データセンター向けの需要増には期待が持てるが、PCやスマホ市場にどこまで期待できるのかがポイントだろう。
半導体市場の盛り上がりは5Gサービスの立ち上がり次第
全体の結論として、2024年の16.0%増というWSTSの予測には概ね賛同できるものの、ディスクリート市場の予測についてはもっと厳しく見るべきだろうし、マイクロやロジックはもっと強気に見るべきだ、というのが筆者の見解である。2024年の初頭から、今まで低迷していたPCやスマホ向けの半導体需要が回復し始め、一方で好調だった車載半導体の需要が失速するなど、半導体の主要アプリケーションの好不調が入れ替わっている、そのため、半導体製品によっては見通しが大きく変化しているのが昨今の特徴である。自動車市場では、電気自動車(EV)需要の見通しが下方修正されているが、自動車需要全体が下方修正されているわけではない。2021年の初頭から2年以上も続いた車載半導体の不足が市場を混乱させ、半導体製品の取り合いが過剰発注を引き起こしたのである。2024年初頭からの車載半導体需要の失速は、過剰発注による在庫調整が原因と思われ、この状況は年末まで継続する可能性が高い。
一方、PCやスマホは2023年の不況で在庫が積み上がり、そのために半導体需要が振るわなかったが、2024年初からはこの状況の改善が見られ、半導体需要が回復している。いずれも半導体需要を大きくけん引するアプリケーションなので、これらの市場動向がどのように推移するのか、極めて重要なポイントである。
繰り返しになるが、5Gサービスの立ち上がりがそのキッカケになる、というのが筆者の持論であり、それがいつ期待できるのか、注目していきたい。いずれにしても、半導体市場が盛り上がるのはこれからである。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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