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基準電圧源を取り外し可能な「高精度DMM」を開発効率的に計量トレーサビリティ確保

産業技術総合研究所(産総研)は、基準電圧源の脱着が可能な「高精度デジタルマルチメーター(DMM)」を、エーディーシーと共同で開発した。DMM本体は別の基準電圧源を内蔵している。このため、取り外した基準電圧源を校正中であっても、DMMは生産工程でそのまま利用できる。

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断熱設計や温度制御方式、電源回路の工夫により小型、高精度を実現

 産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門の丸山道隆研究グループ長と金子晋久首席研究員、浦野千春研究部門付は2024年7月、基準電圧源の脱着が可能な「高精度デジタルマルチメーター(DMM)」を、エーディーシーと共同で開発したと発表した。DMM本体は別の基準電圧源を内蔵している。このため、取り外した基準電圧源を校正中であっても、DMMは生産工程でそのまま利用できる。

 チップコンデンサーやチップ抵抗など、高い性能が求められる電子部品の製造工場では、品質維持のため精度が高い測定器を用いて検査を行う。測定器自体も高い測定精度を維持するために、校正機関などに依頼して定期的に校正を受けなければならなかった。このため、校正期間中は生産工程の一部を停止するか、代替の測定器を用意する必要があった。

 そこで研究チームはDMMに内蔵される基準電圧源をモジュール化し、脱着可能な機構を開発した。これを実現するため、断熱設計や温度制御方式、電源回路などを工夫した。特に、エーディーシーが断熱性能の改善や省電力化、ノイズ低減、A-D変換器の線形性向上などに取り組み、産総研がジョセフソン電圧標準を用いてその評価などを行った。

開発した基準電圧源脱着型DMMの特長
開発した基準電圧源脱着型DMMの特長[クリックで拡大] 出所:産総研

 研究チームは、基準電圧源脱着型DMMのプロトタイプを作製し特性評価を行った。基準電圧源モジュールの外形寸法は、5.4×5.4×8.6cmと小さい。しかも、バッテリーを内蔵しており、DMM本体から取り外しても約30分間は通電状態を保つことができる。輸送用のバッテリーボックスに装着すれば約5日間のバッテリー駆動が可能なため、電圧安定度を維持したまま校正を受けることができる。AC電源による連続通電も可能である。

 校正済みの基準電圧源モジュールは、DMM本体に装着し校正コマンドを実行すればDMMの電圧校正が完了する。DMM本体には、脱着可能な基準電圧源とは別の基準電圧源も組み込まれている。このため、脱着可能な基準電圧源を校正中でも、検査ラインでそのままDMMを使い続けることができる。

 研究チームは、試作品の性能を確認するため、ジョセフソン電圧標準を用いて評価を行った。校正直後の基準電圧源モジュールを装着したDMMにおけるゲイン誤差の経時変化特性では、1年を通して±0.4μV/V以内のゲイン誤差が再現されることを確認した。ちなみに、固定された基準電圧源の従来型DMMでは、1年間に2μV/V程度のゲイン誤差となった。この他、温度特性や気圧特性、湿度特性などにおいても、従来型DMMと同等以上の特性が得られることを確認した。

試作品と従来型DMMにおけるゲイン誤差の経年変化
試作品と従来型DMMにおけるゲイン誤差の経年変化[クリックで拡大] 出所:産総研

 さらに、基準電圧源モジュール単体での出力安定度を評価した。開発したモジュールは、1年間に約0.33μV/V程度の相対的な電圧の低下傾向を示すことが分かった。なお、近似直線に対する各測定値のずれは、±0.2μV/V以内だという。

基準電圧源モジュールにおける公称10V出力の経年変化特性
基準電圧源モジュールにおける公称10V出力の経年変化特性[クリックで拡大] 出所:産総研

 エーディーシーは、開発した基準電圧源脱着型DMMを2024年度内に販売する予定。基準電圧源に加え、標準抵抗器や基準周波数源などもモジュール化し、これらを内蔵したマルチ基準源モジュールの開発を進めていく計画である。

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