理研、「バーチャル富岳」初版の提供を開始:初版の対象はAWSクラウドサービス
理化学研究所(理研)計算科学研究センターは、スーパーコンピュータ「富岳」以外のハードウェア環境で利用できるソフトウェア群「バーチャル富岳」初版の提供を始める。初版はAWS(アマゾン ウェブ サービス)のクラウドサービスが対象となる。
富岳以外のスパコン上などに、ソフトウェア環境を再現
理化学研究所(理研)計算科学研究センターは2024年8月、スーパーコンピュータ「富岳」以外のハードウェア環境で利用できるソフトウェア群「バーチャル富岳」初版の提供を始めると発表した。初版はAWS(アマゾン ウェブ サービス)のクラウドサービスが対象となる。
バーチャル富岳は、富岳以外のスパコンやクラウドサービス上に、「富岳」と同等のソフトウェア環境を再現することができる。プライベートな富岳を構築することで、富岳による研究成果や最先端の研究用計算プラットフォームを、誰でも簡単に利用できるようになる。
バーチャル富岳は、富岳に搭載されたCPU「A64FX」と互換性がある、AWSのCPU「Graviton」が対象となる。富岳向けに用意されたソフトウェアの中から、利用頻度の高いものを抽出し、これらのバイナリを一体化して配布される。プライベートな富岳で開発した成果については公開する義務はないという。
このため、研究開発段階では「富岳を活用」し、その成果を基に製品や商品を開発する段階で「プライベートな富岳を利用する」というように使い分けすれば、秘匿性を担保しながら開発作業を円滑に行うことができる。
理研では、「バーチャル富岳」の試験環境として、「AWS Graviton3E」を採用した「Amazon EC2 Hpc7gインスタンス」を中核とするクラウドリソースの提供も始めた。「バーチャル富岳」の試験環境は、富岳の利用者であれば誰でも活用できる。今後、「バーチャル富岳」にソフトウェアの提供を検討しているソフトウェア開発者が、開発環境として使うことも可能だという。
理研は、富岳が採用しているArm命令セットアーキテクチャとは異なるコンピュータシステム向けの「バーチャル富岳」も提供していく考えである。
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