「富岳」、スパコン性能ランキング2部門で9期連続の世界1位:HPCGとGraph500で
理化学研究所(理研)と富士通が共同開発したスーパーコンピュータ「富岳」が、世界のスーパーコンピュータの性能ランキング「HPCG」および、「Graph500」のBFS(Breadth-First Search)部門において、9期連続で世界第1位を獲得した。
「TOP500」と「HPL-MxP」でも、それぞれ世界4位
理化学研究所(理研)と富士通は2024年5月、2021年3月から本格稼働しているスーパーコンピュータ「富岳」が、世界のスーパーコンピュータの性能ランキングである「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」および「Graph500」の「BFS(Breadth-First Search)部門」において、9期連続で世界第1位を獲得したと発表した。なお、「TOP500」と「HPL-MxP」については、それぞれ第4位となった。
富岳は理研と富士通が共同開発し、2021年3月に本格稼働を始めた。ライフサイエンスや防災減災、エネルギー、ものづくり、基礎科学、社会経済といった幅広い分野に活用され、成果を上げている。今回の世界ランキングは、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)に関する国際会議「ISC High Performance 2024」の開催中に発表された。
「HPCG」は、産業利用などの実際のアプリケーションでよく用いられる共役勾配法の処理速度を示す指標。富岳の432筐体(15万8976ノード)を用いて、16.00PFLOPSというスコアを達成した。ちなみに、第2位は米Frontierの14.05PFLOPSだった。
「Graph500」は、大規模なグラフ解析に関する性能ランキングだ。富岳は、Graph500のBFS(Breadth-First Search)部門で9期連続の第1位を獲得した。SNSやSociety 5.0など大規模で複雑なデータ処理が必要となるビッグデータの解析で重要となる指標で、不規則な計算が大半を占めるグラフ解析においても、富岳は高い性能を発揮することを実証した。理研や東京工業大学、フィックスターズ、NTT、富士通の共同研究グループが、ハードウェアの性能を最大化するためのソフトウェアを開発し、性能を大幅に向上させた。
具体的には、富岳の15万2064ノード(全体の約95.7%)を用いて、約4.4兆個の頂点と70.4兆個の枝で構成される超大規模グラフの幅優先探索問題を平均0.42秒で解いた。Graph500のスコアは166,029GTEPSで、前回(2023年11月)に比べ約20%も向上させた。BFSの結果に影響を与えずに、不要な頂点を削除する前処理を新たに導入したことで実現した。グラフデータの新しい圧縮技術も開発し、使用するメモリ量を大幅に削減できるという。
「TOP500」は、行列計算による連立一次方程式の解法プログラムであるLINPACKの実行性能を指標とするランキング。富岳は432筐体の構成で、LINPACK性能は442.01PFLOPS、実行効率82.3%となり第4位となった。第1位は1206PFLOPSを達成した米Frontier。
「HPL-MxP」(旧名称:HPL-AI)は、AIの計算などに用いられる単精度や半精度演算器などの能力も加味した計算性能を評価する指標。富岳は432筐体を用い、2.000EFLOPSのスコアを達成し、第4位となった。第1位は米Auroraの10.6EFLOPSであった。
なお、富士通は富岳のさらなる高性能化や省電力化、高信頼、使いやすさなどを実現するため、ArmアーキテクチャのCPU「FUJITSU-MONAKA」を開発中だという。また、「富岳」で学習し公開された大規模言語モデル「Fugaku-LLM」について、「Fujitsu Research Portal」を通じて提供を始めた。
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