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メンテ不要の環境発電IoT機器の普及に向け、低消費電力を追究した電源ICと半固体電池、無線技術が融合トレックス・セミコンダクター、日本ガイシ、イーアールアイ

環境発電(エナジーハーベスト)でメンテナンスフリーのIoT機器は実現できる――。トレックス・セミコンダクター、日本ガイシ、イーアールアイが共同で環境発電デモボードを開発した。低消費電力にこだわった電源ICと自己放電が小さくフロート充電耐性に優れる半固体電池、低消費電力無線システム設計技術を融合させ、発電量が小さい環境発電素子でも長期間動作するデモボードを実現した。デモボードの概要や開発の狙いなどについて3社のキーパーソンにインタビューした。

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環境発電素子をつなげてすぐに動くデモボード「EsBLE」

――トレックス、日本ガイシ、イーアールアイの3社で環境発電デモボード「EsBLE」を開発しました。開発に至った経緯を教えてください。

トレックス 山本智晴氏 IoT機器は「開発に時間がかかる」「電池動作時間が短くメンテナンスの手間もかかる」という課題があり、これを解消してIoT機器をより普及させたいという思いが3社にあった。

 トレックスは超低消費電力の小型電源IC、日本ガイシは自己放電が少なくてフロート充電耐性が高いリチウムイオン二次電池「EnerCera (エナセラ) 」(参考リンク:超薄型・小型リチウムイオン二次電池「EnerCera(エナセラ)」、イーアールアイは低消費電力無線通信技術を基盤にしたIoTシステム設計技術と、3社ともにIoT機器に最適な技術を保有していた。これらを組み合わせることで、メンテナンスフリーのIoT機器を短期間で開発できるソリューションを提供できるのではないかと考えて協業し、開発したのがEsBLEだ。


左から、トレックス・セミコンダクター 山本智晴氏、イーアールアイ 三浦淳氏、日本ガイシ 大和田巌氏

――EsBLEの概要を教えてください。


EsBLEに搭載される0.8A昇圧DC-DCコンバータ「XC9145」(写真中央)の実装例。400nAと極めて低い自己消費電流とPWM/PFM自動切替制御によって出力電流10μA以下でも高い効率を実現した 提供:トレックス・セミコンダクター

トレックス 山本氏 EsBLEは、昇圧DC-DCコンバータ「XC9145」、リチウムイオン二次電池「EnerCera」と充電ICの他にBluetooth v5.0対応通信モジュール、5種類のセンサー(気圧、温湿度、照度、加速度、ジャイロ)を搭載している。太陽光/室内光発電や振動発電、ダイナモといった環境発電素子をつなぐだけですぐに動作する。専用のスマートフォンアプリでセンサーの測定値や電池電圧の推移などをリアルタイムに確認でき、環境発電素子の評価などが簡単にできるデモボードだ。

EsBLEには3つの基板(電池充電基板、電源IC基板、通信/センサー基板)構成の「EsBLE TYPE1」(左)と、1枚の基板に集積した「EsBLE TYPE2」の2種類がある。実装密度をさらに高めれば38×27mmのEnerCeraパウチと同サイズに小型化できるという 提供:イーアールアイ

電池だけの駆動が3日から10日に!

――トレックスと日本ガイシは2018年から協業し、環境発電素子で動作するIoT機器普及に向けて電源ICとEnerCeraを組み合わせたボードも提供してきました。(関連記事:真のメンテナンスフリーIoT実現へ、超低消費電源ICと半固体電池が強力タッグ

トレックス 山本氏 EnerCeraと充電用LDO、DC-DCコンバータを組み合わせたボードの提供などで一定の成果を挙げてきた。ただ、センサーや通信モジュールを搭載しておらず、すぐに開発評価に着手できるとは言い難かった。そこでIoTシステム設計技術を持つイーアールアイに加わってもらい、EsBLEを開発した。

――イーアールアイのIoTシステム設計技術の特長を教えてください。


イーアールアイ 技術部 グループマネージャー 三浦淳氏

イーアールアイ 三浦淳氏 イーアールアイはBluetooth Low Energy(以下、BLE)を使った無線通信技術をベースとする低消費電力のIoTシステムの開発を手掛けている。BLEは低消費電力の無線だが、データの出力方法によってIoTシステムとしての消費電力は大きく異なる。ユーザーの要件を満たしつつ回路やファームウェアを最適化して省電力を実現するという設計技術がイーアールアイの強みだ。

――EsBLEの省電力性能について教えてください。

イーアールアイ 三浦氏 搭載センサーで5秒に1回測定し、BLEビーコンでスマホなどにデータを2秒間隔で送信するという使用方法であれば、容量20mAhのEnerCeraだけで充電せずに10日間以上動作する。

トレックス 山本氏 イーアールアイとの協業前にEsBLEのようなボードを試作したことはあったが、同様の使用方法ではせいぜい3日間ほどしか動作時間を確保できなかった。イーアールアイのノウハウによって電源ICやEnerCeraの性能が最大限に生かされ、環境発電で真のメンテナンスフリーIoT機器を短期間で開発できるようになったと感じている。

EsBLE TYPE2を使った太陽光パネルによる充電動 <動画提供:イーアールアイ>

電池寿命も長く、真のメンテナンスフリーに大きく前進

――メンテナンスフリーを実現する上で電池寿命が気になります。


日本ガイシ 執行役員 NV推進本部 DS事業開発 大和田巌氏

日本ガイシ 大和田巌氏 通常のリチウムイオン二次電池は、満充電に近い状態で充電し続けるフロート充電を行うと正極材と有機バインダーが化学反応を続けて劣化し、あるタイミングで突然機能しなくなる。EnerCeraは有機バインダーを使用していないのでフロート充電での劣化がほとんどなく、10年以上の電池寿命を実現している。

イーアールアイ 三浦氏 IoT機器を開発する際は二次電池の使用は不安がつきまとう。過酷な環境で使われることが多いIoT機器では、リチウムイオン二次電池は発熱・発火などを起こす恐れが拭えないからだ。EnerCeraは有機バインダーを含まず、高温環境下やクギなどが刺さって破損した場合でも発熱・発火の心配がない。安心してIoT機器に搭載できるようになった。


コイン型とパウチ型の2種類があるリチウムイオン二次電池のEnerCera。日本ガイシ独自の結晶配向セラミックス板を電極に採用し、ごくわずかな電解液しか使用しないため「半固体電池」とも位置付けられる 提供:日本ガイシ

環境発電素子メーカーと共に普及を促進

――EsBLEと協業の今後の展開について教えてください。


トレックス・セミコンダクター 取締役 執行役員 営業・マーケティング本部本部長 山本智晴氏

トレックス 山本氏 環境発電によるIoT機器はこれまで消費電力に対して発電量が十分ではなく、電池にも課題があり、使える用途が限られたり開発が難しかったりした。EsBLEは消費電力が小さく、環境発電によるメンテナンスフリーのIoT機器が本当に使える水準にあると実感できるデモボードに仕上がった。環境発電IoT機器の導入を諦めていた方などに広く紹介したい。

日本ガイシ 大和田氏 EsBLEを通じて環境発電素子メーカーとの関係も深めていきたい。IoT機器の消費電力の大きさからIoT機器市場への参入をためらっていた環境発電素子メーカーも、EsBLEであれば環境発電素子を十分に生かせる可能性がある。多くの環境発電素子メーカーと連携して、メンテナンスフリーを実現できる環境発電IoT機器を普及させたい。

――EsBLEの販売予定はありますか。

イーアールアイ 三浦氏 現時点ではEsBLEそのものを販売するのではなく、EsBLEをベースとして活用し短期間でIoT機器開発ができるようにサポートする。お問い合わせいただいた顧客の要望をヒアリングし、最適な形にカスタマイズ開発して提供するビジネスモデルを展開する。EsBLEに興味、関心のある方は、ぜひわれわれ3社に問い合わせてほしい。



提供:トレックス・セミコンダクター株式会社、日本ガイシ株式会社、株式会社イーアールアイ
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年9月20日

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