エイブリックは、製品の高付加価値化を一段と加速する。得意とするアナログ回路技術に周辺のロジック回路を取り込むことで「プラスアルファ」の機能を実現し、高付加価値化を図る。2023年4月に統合した半導体設計会社SSCの大規模ロジック回路技術を活用する他、企画/開発組織を刷新。新製品の“ヒット率”を上げ、グローバルニッチな分野で確実にシェアを取りにいく戦略を強力に推し進める。
――足元および2024年後半の景況感をお聞かせください。
花沢聡氏 コロナ禍の終盤に差し掛かった2023年度は一気に在庫調整の局面が始まり、特に前半は業績面で苦戦を強いられる場面もあった。ただ、2024年度に入ってようやく在庫調整の局面が終わり、需要が戻り始めている。われわれの主要ターゲットでは、データセンターは回復が遅れつつあるものの、車載、医療、スマートフォン、ノートPCで需要が回復基調にある。一部のキーコンポーネントは在庫調整が続いているが市況は好調で需要も手堅いため、これらの分野も在庫調整が終われば順調に伸びていくとみている。
――中長期的な製品戦略をお聞かせください。
花沢氏 エイブリックの強みであるアナログ半導体に周辺のデジタル回路技術を取り込んだ高集積ミックスドシグナル・ソリューションの市場投入を加速する。“アナデジ”集積による高付加価値品を拡充して高収益化を図るとともに、ニッチな分野でのシェアを確実に取りにいく。
具体的には、リチウムイオン電池保護IC、車載用電源IC、医療機器用IC、磁気センサIC、及び当社独自のエナジーハーベスト技術「CLEAN-Boost*))」の5製品群に注力する。従来から手掛けてきた分野だが、アナログおよびミックスドシグナル技術を活用して“プラスアルファ”の機能を追加し、高付加価値化を追求する。“プラスアルファ”の部分をわれわれは「成長のためのアドオン」と呼んでいる。このアドオンにより、お客様の実装基板上において当社製品が占める割合を増やすことが基本的な狙いになる。
*)「CLEAN-Boost」は、エイブリックの登録商標です。
――具体的にはどのようなソリューションを提供するのでしょうか。
花沢氏 リチウムイオン電池保護ICでは、電流経路を遮断する既存の保護用ICに加えて電流・電圧制御や監視といった高度な処理を行う高集積AFE(アナログフロントエンド)ICのラインアップを増やす。こうしたAFE ICは大型のESS(蓄電池システム)やEV(電気自動車)で特にニーズが高い。当社は、スマートフォンなどの比較的小型なシステムに保護用ICを提供し、確固たる地位を築いている。それを足掛かりに大型かつ複雑な産業用システムへの参入を図る。
車載用電源ICでは、搭載の進むリチウムバッテリ用のリチウムイオン電池保護IC、大電流DC-DCコンバータ、及びPMIC(電源管理IC)の製品群を拡充する。
医療機器用ICでは、超音波診断装置用の送信ICに加えて受信ICもそろえる予定だ。また成長市場のポータブル超音波診断装置向け送受信IC、強み技術を活かせるソナーや非破壊検査といった新たな分野の開拓も狙う。
磁気センサICでは、単純な開閉検知の用途だけでなく、より高度な回転・変位検知のアプリケーション用に磁気エンコーダや磁気リニアホールなどの新製品を開発する。
CLEAN-Boostは、水に加えて、振動や温度差を利用する環境発電技術も取り入れて展開する見込みだ。環境発電向け電源ソリューション(電源コア)の商品化に加え、共同開発を行うパートナー企業を増やし、市場創出にも力を入れる。
いずれも開発を始めており、その多くが2026年度の上市を見込んでいる。新製品では東アジア及び欧米がキーマーケットになるだろう。
――2023年4月にロジック設計を手掛けるSSCを統合しました。今回の製品戦略では重要な役割を担いそうです。
花沢氏 高度な制御回路には、SSCの大規模ロジック回路設計技術が不可欠だ。大規模ロジック回路は、エイブリックの保有技術だけでは十分に対応できなかった部分でもあり、SSCの統合でそこが大幅に強化された。SSCの技術を生かした大規模ロジック回路を搭載するソリューションの開発プロジェクトも着実に増えている。
――投資戦略はいかがでしょうか。
花沢氏 基本的には人材に投資する。製造ではIDM(垂直統合型自社生産)に加えて外部ファウンドリーを効果的に活用し、効率的な生産活動を推進していく。
さらに、全製品に占める新製品の比率を上げる。2023年度比で、2026年度までに約2倍に引き上げる計画だ。高い目標ではあるが、この比率を上げることは高収益化に直結するためさまざまな手を打っていく。
新製品のヒット率を高める取り組みも強化する。開発した製品がどれだけ売り上げに貢献したかを明確にすることで“企画の質”を向上させることが狙いだ。そのために2024年5月に組織を刷新した。これまで同じ部門だった企画と開発を切り離して別々の部門とし、それぞれに売り上げ責任を持たせる構造に変えた。企画と開発の両部門で製品戦略に対する意識を研ぎ澄ましていく。
――「成長のためのアドオン」として挙げた領域には、競合がひしめく分野もあります。エイブリックの強みをあらためてお聞かせください。
花沢氏 われわれの前身であるセイコーインスツル半導体事業は、クオーツウォッチ用のCMOS ICを半世紀にわたって手掛けてきた。そこで培った省電力技術や超小型パッケージ技術は当社が最も力を発揮できる部分だ。大電流DC-DCコンバータであれば、同等性能を持つ競合品よりも小型かつ低消費電力を実現する。最終製品であれば、当社のICを採用することで小型化、省電力化できるようにする。そのような製品を開発することがわれわれの強みであり、当社のビジョン「Small、Smart、Simple」を具現化することにもつながる。
設計の自動化が進むデジタル半導体とは異なり、長年蓄積してきた技術やノウハウがものをいうアナログ半導体は成熟したプロセス技術で勝負できる分野だ。われわれの強みを存分に生かして「成長のためのアドオン」を実現し、市場開拓と事業成長を加速させていく。
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提供:エイブリック株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年9月20日