2018年10月に自動車向け電源市場に参入したVicor。独自技術で高い電力密度を実現した車載用電源モジュールの量産を2024年に開始する。800Vから直接48Vに降圧できるDC-DCコンバータなど、次世代の車載アーキテクチャを見据えた特徴的なラインアップをそろえた。Vicorのオートモーティブマーケティング部門でディレクターを務めるGregory Green氏は、Vicorの電源モジュールはEV(電気自動車)の大幅な軽量化と低コスト化に貢献すると意気込む。
――Vicorは、2018年10月に本格的にオートモーティブ向け事業を立ち上げました。現在の進捗(しんちょく)はいかがですか。
Gregory Green氏 車載用電源モジュールのラインアップがそろい、本格展開の準備が整った状態だ。コンピューター・サーバーや産業機器などで十分な市場実績がある製品と技術を生かし、主要顧客の要求に沿ったEV(電気自動車)用DC-DCコンバータモジュールの開発を着実に進めてきた。2022年には米国の新工場の拡張工事が完了し、生産体制も強化した。これらの製品の量産がちょうど今年始まり、拡販のための取り組みも本格化している。2025年末までには、Vicorの電源モジュールを搭載した自動車の量産が始まるだろう。
――EVの電力供給ネットワークにおける課題は何でしょうか。
Green氏 電源システムの電力密度をいかに高めるかが課題だ。大型のリチウムイオンバッテリーを搭載しているEVの重量は、ガソリン車より一般的に15〜30%重い。電源の小型化はEVの軽量化やモーターのエネルギー変換効率の改善、航続距離の伸長に直結する。
メインバッテリーの電圧が400Vから800Vに上昇していることや、48V系システムと12V系システムが混在していることも課題になっている。
――そのような課題に応えるVicorの技術や製品についてお聞かせください。
Green氏 自動車では、高効率の電力変換ソリューションをいかに小さい面積で実現するかが重要であり、Vicorの高電力密度の電源モジュールはそこに貢献する。ソフトスイッチング技術を用いた独自のSAC(Sine Amplitude Conversion)は、そうしたソリューションを実現する中核技術の一つだ。このSACは入出力電圧比が固定のコンバータ方式で、電圧変換比は、800Vから48Vへ変換する1/16、400Vから48Vへ変換する1/8などがある。
――車載用電源モジュールの主要なラインアップを教えてください。
Green氏 主に4種類ある。1つめは、800Vと48Vの双方向変換を行う「BCM6135」だ。2.5kWの出力電力と80Aの出力電流を実現した。800Vから48Vを直接生成できるので、少ない部品点数で48V系システムを容易に実現できる。自動車には12V系システムもまだ多いので、48Vから12Vに降圧するDC-DCコンバータ「DCM3735」も用意した。出力電力は2kWで、出力電圧は8〜16Vの範囲で調整できる。3つめは、安定化した48V電圧を出力するレギュレータ「PRM3735」だ。これらの電源モジュールはおのおの並列接続が可能なので、4kWの出力が必要の場合には、2つのモジュールを並列に接続すればよい。
前述したように現在の自動車には48V系システムと12V系システムが混在しており、顧客はよりシンプルな回路を構成できるソリューションを求めている。48V系システムに対応しやすいことも重要だ。当社のソリューションで構成することで、12Vに降圧する必要がなければDCM3735を取り除くだけで済む。
4つめは800V/400Vの双方向変換を行う「NBM9280」だ。現在、EVのバッテリー電圧は800Vへと移行しているが、既存の充電スタンドの多くは400Vバッテリーの急速充電にしか対応していない。NBM9280を用いることで、400V対応の充電スタンドと800Vバッテリーとの互換性を確保できる。このソリューションは自動車メーカーやTier1メーカーからのニーズが非常に高い。NBM9280を使うことで、800Vバッテリーから400Vを供給することも可能だ。これにより、自動車メーカーがプラットフォームを400Vバッテリーから800Vバッテリーへアップグレードする際に、400Vのポンプ、コンプレッサー、その他のデバイスをそのまま活用することができる。
上記の電源モジュールを組み合わせることで、300通りに及ぶ電力供給ネットワークを構築できる。これだけの組み合わせがあれば、顧客のさまざまなニーズに応えられるだろう。
――上記の4種類の電源モジュールを車載市場で本格展開する戦略についてお聞かせください。
Green氏 電源モジュール単体ではなく、幾つかを組み合わせた小型のDC-DCシステムとして提案し、使いやすさを訴求する。その一つとして、800Vから48V/12Vに降圧するDC-DC変換システムのプロトタイプを開発した。BCM6135とDCM3735を2個ずつ搭載したもので、出力は4kW、容量(サイズ)は約1.5L(245×100×40mm)。つまり、3.63kW/Lという高い電力密度を実現した。これだけ小型であればEV用バッテリーハウジング内に搭載できる。
電圧変換は決して難しい技術ではないが、それを小型のデバイスやモジュールで実現するのは非常に難しい。Vicorはそのノウハウを持っているからこそ、プロトタイプのような高い電力密度を実現できる。自動車には十分なスペースがあるように見えるがそうではない。走る、曲がる、止まるという駆動/制御系から車載インフォテインメントまで、必要なシステムやネットワーク全てを収めなければならず、スペースの問題は常について回る。それ故、電力供給ネットワークには高い電力密度が要求される。
――Vicorの電源モジュールでEVは大幅に軽量化できそうです。
Green氏 自動車のE/E(電気・電子)アーキテクチャは、48Vゾーンアーキテクチャへ移行すると想定される。このアーキテクチャで自動車メーカーが12V負荷を徐々に48Vに移行して、48Vシステムで大幅な軽量化を実現するためには、BCM6135とDCM3735が鍵となる。さらに、BCM6135をリチウムイオン電池のプリチャージ回路として使うと、コンタクターと大型で発熱が大きいパワーレジスタを取り除くことができる。
Vicorの電源モジュールを使うことで、さまざまなE/Eシステムの小型化につながることから、EVの重量は最大25kg軽量化でき、コストは75〜100米ドル削減できると試算している。
――日本でのビジネス機会はいかがですか。
Green氏 順調に拡大している。日本の自動車メーカーやTier1の方々から関心を寄せられていて、手応えを感じる。Vicorの電源モジュールはEVの重量やコストの削減に大きく貢献できることを強く訴求していく。
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提供:Vicor株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年9月20日