STが最新世代SiC MOSFETを発表、EVインバーター向けに最適化:750Vおよび1200V品を予定
STMicroelectronicsが、最新世代となる第4世代SiC MOSFET技術を開発した。定格電圧750Vおよび1200Vの製品を提供予定。電力効率や電力密度、堅牢性を向上し、特に次世代のEV(電気自動車)トラクションインバーター向けに最適化されているという。
STMicroelectronics(以下、ST)は2024年9月24日(スイス時間)、最新世代となる第4世代SiC MOSFET技術を開発したと発表した。定格電圧750Vおよび1200Vの製品を提供予定。電力効率や電力密度、堅牢性を向上し、特に次世代の電気自動車(EV)トラクションインバーター向けに最適化されているという。
STの第4世代SiC MOSFET技術は、従来世代と比較してオン抵抗を大幅に低減。伝導損失を最小限に抑え、システム全体の効率向上が可能となる。スイッチング速度も向上したことでスイッチング損失が改善し、「高周波数アプリケーションで求められるコンパクトで効率的な電力コンバーターを実現する」(同社)としている。さらに、車載用規格「AQG324」を上回る動的逆バイアス(DRB)条件下での堅牢性を備え、過酷な条件下でも信頼性の高い動作が可能という。
また、「オン抵抗×ダイ面積」の数値についても、「第4世代でも優れた数値を維持していて、最小限の損失で高い電流処理能力を確保している」と説明。25℃におけるオン抵抗を基準とすると、第4世代デバイスの平均ダイ面積は、第3世代と比較して12〜15%小さくなっているという。
「SiCのメリットを中型、小型EVにまで拡大」
STは、第4世代SiC MOSFET技術プラットフォームにおいて、既に750Vクラスは品質認定を完了していて、2025年第1四半期には1200Vクラスの認定も完了予定だという。その後、定格電圧750Vおよび1200V製品を提供開始予定だ。
SiCパワーデバイスを用いた800Vシステムは高級価格帯EVを中心に採用が進み、より長い航続距離を実現しているが、STは750Vおよび1200Vの第4世代SiC MOSFETが、400Vおよび800Vシステムのトラクションインバーターのエネルギー効率および性能向上を実現し、「SiCのメリットを大規模市場の普及に不可欠な中型および小型EVにまで拡大する」と述べている。
またSTは、第4世代SiC MOSFETの主な用途はEVのトラクションインバーターだとしつつ、「スイッチング性能と堅牢性の向上によって、高出力の産業用モーター駆動にも適している。効率的で信頼性の高いモーター制御が可能になり、産業分野におけるエネルギー消費と運用コストを削減できる」とも説明。さらに、ソーラーインバーターやエネルギー貯蔵システムのほか、AI(人工知能)サーバ/データセンターの電源ユニット用途としても「大量の電力需要と熱管理という課題への対応に、その高い効率性とコンパクトなサイズが役立つ」などと強調している。
STはプレスリリースにおいて、今後のロードマップについても言及。SiCパワーデバイスについて垂直統合型の製造戦略を取って開発を加速する同社は、「今後3年間にわたりパワーデバイス技術を進歩させるべく、複数のSiC技術革新を並行して開発している」と説明している。STによると、同社が開発する第5世代SiCパワーデバイスは、プレーナ構造に基づく「革新的な高電力密度テクノロジー」を特長としているという。また同時に、既存技術と比較して高温でのオン抵抗が非常に小さく、オン抵抗のさらなる低減を実現する技術革新の開発も進めているとしている。
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