ありふれた材料で「高性能熱スイッチ」を開発:熱制御デバイスの実用化に弾み
北海道大学の研究グループは、ありふれた材料を用いて熱伝導率切替幅が従来の2倍以上となる「熱スイッチ」を開発した。熱制御デバイスの開発に弾みをつける。
ガラス磨き粉として知られる「酸化セリウム」を活性層に採用
北海道大学電子科学研究所のジョン・アロン博士研究員と太田裕道教授、同大学院情報科学院修士課程の吉村充生氏らによる研究グループは2025年1月、ありふれた材料を用いて熱伝導率切替幅が従来の2倍以上となる「熱スイッチ」を開発したと発表した。熱制御デバイスの開発に弾みをつける。
環境問題の観点から「使われずに捨てられている排熱」を再利用するための熱制御技術が注目されている。これを可能にする技術の1つが、熱流の流れやすさを電気的に切り替えることができる「熱トランジスタ(熱スイッチ)」である。
研究グループは、2023年2月に全固体熱スイッチを初めて発表。2024年7月には性能をさらに高めた全固体熱スイッチを実現した。ただ、これらはコバルトやニッケルといった金属を主成分とする材料を用いており、材料の安定供給などが懸念されていた。
研究グループは今回、活性層材料として「酸化セリウム」を用いた。ガラス磨き粉として市販されている「ありふれた材料」で、資源としては比較的豊富に存在し価格も安い。酸化/還元が可能で、酸化状態では室温で14W/mKと、比較的高い熱伝導率を示すことが分かっている。
そこで、酸化セリウムを活性層とする全固体熱スイッチを作製し、空気中において280℃に加熱した状態で通電し、オン状態(酸化状態)とオフ状態(還元状態)を切り替えながら、熱伝導率の変化を調べた。
実験では、酸化セリウム薄膜を一度還元(オフ状態)し、酸化(オン状態)した。そうすると、熱伝導率は最も還元された状態で約2.2W/mKとなり、酸化とともに熱伝導率は12.5W/mK(オン状態)まで増えた。還元(オフ状態)と酸化(オン状態)のサイクルを100回繰り返し行った結果、熱伝導率の平均値は還元後(オフ状態)で2.2W/mK、酸化後(オン状態)は12.5W/mKとなった。
酸化セリウムを用いた熱スイッチの動作は極めて安定しており、オン/オフ熱伝導率比は5.8となった。また、熱伝導率切替幅は10.3W/mKで、活性層にSrCoOxやLaNiOx薄膜を用いた熱スイッチの熱伝導率切替幅に比べ、2倍以上の値となった。
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