8K有機EL TV画面を駆動可能 高電子移動度の酸化物TFT:安定性にも優れる
北海道大学の研究グループは、電子移動度が78cm2/Vsで安定性に優れた「酸化物薄膜トランジスタ」を高知工科大学と共同で開発した。次世代8K有機ELテレビの画面を駆動することが可能となる。
活性層薄膜の表面を保護膜で覆い、安定性を大きく改善
北海道大学電子科学研究所の曲勇作助教や太田裕道教授らの研究グループは2024年8月、高知工科大学理工学群の古田守教授らと共同で、電子移動度が78cm2/Vsで安定性に優れた「酸化物薄膜トランジスタ」を開発したと発表した。次世代8K有機ELテレビの画面を駆動することが可能となる。
現行の4K有機ELテレビでは、画面を駆動するのに酸化物IGZO薄膜トランジスタ(a-IGZO TFT)が用いられている。このトランジスタの電子移動度は5〜10cm2/Vs程度である。ところが、次世代8K有機ELテレビの画面を駆動しようとすれば、電子移動度が70cm2/Vs以上の酸化物薄膜トランジスタが必要になるという。
そこで曲助教らは、活性層に酸化インジウム(In2O3)薄膜を用いて、電子移動度が140cm2/VsというTFTを2022年に開発した。ところが、空気中における気体分子の吸着・脱離などによって、安定性(信頼性)が極めて悪くなるため、実用化までには至らなかったという。
研究グループは今回、空気中の気体が吸着しないよう、活性層薄膜の表面を保護膜で覆うことにした。実験結果から、酸化イットリウムと酸化エルビウムを保護膜にしたTFTは、極めて高い安定性を示すことが分かった。しかも、電子移動度は78cm2/Vsで、±20Vの電圧を1.5時間印加し続けても特性は変化せず、安定していたという。
一方、酸化ハフニウムや酸化アルミニウムを保護膜としたTFTでは、安定性が向上しなかった。電子顕微鏡を用いて原子配列を観察したところ、酸化インジウムと酸化イットリウムは原子レベルでピッタリ結合(ヘテロエピタキシャル成長)することが分かった。これに対し、安定性が改善されなかったTFTは、酸化インジウムと保護膜の界面がアモルファスになっていることを確認した。
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